社会人パロ

【fuzz connection】第四部

 

 

 
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【【fuzz connection】第四部】

 

 

 

アスランって筋肉バカなんじゃないの・・・

 

 

 

 

 

 

日曜の早朝。
僕は僕で痩せなくちゃいけない理由ができたから、アスランのジョギングに賛成して走っているけれどさ。
え・・・もちろん、ラクスの許可はもらっているし、今日はラクスの家でカガリとお泊り会している。
本当はシホも誘いたかったらしいんだけど、妊婦だし、イザークの許可が下りなかったらしい。
じゃ、イザークの家ですればいいと僕は提案したんだけど・・・
その連絡をシホ経由で知ったイザークには、翌日、社内の廊下ですれ違う時に蹴飛ばされた。

 

あんな乱暴者が父親になっていいのだろうか。

 

『ぁ・・・はぁ・・・あすら・・・そろそろ・・・』

 

『え・・・また休憩か?キラ?』

 

『だっ・・・て・・・さっ・・・きから20分は走ったし・・・』

 

『・・・そうだな、日焼けしそうだしな』

 

駐車場まで歩いて帰るか・・・と、提案するアスランの横で、僕は腰を下ろして横になっていた。
いつもの河川敷ではなく、今日は陸上用トラックが作られている大きな公園。
トラックの真ん中は芝生となっているので、そのまま倒れて伸びをする。
熱くなった背中に少しひんやりした芝生。
土の香りが漂ってくる。

 

こんな筋肉バカになんでカガリを押し付けなくてはいけないんだろう・・・
ラクスの妄想はちょっと修正させた方がよいと思うんだけど。

 

日が昇りだし、徐々に強くなってくる日差しに目を細めながら、僕は体を起こした。
朝が早かったことと眩しいのとで、少し目をこする。

 

『アスランは日焼け気にするの?僕は気にしているけど・・・』

 

『・・・少しはね。ほとんど内勤なのに日焼けしていたらなんかオカシイだろ』

 

僕の傍らに腰を下ろしたアスランは、足を延ばしてストレッチを始めた。
整理体操のつもりなのかな・・・
それにしてもそこまで曲がるなんて結構柔らかい身体をしているよね。

 

『会社帰りにヒサロ行ってきたって、社内の女の子に話せばいいじゃん』

 

『そんなの・・・話してもせいぜ・・・い、おやつくれる・・・程度だよ』

 

『ふぅん・・・マーケティング部署なんだし、女性が多そうなイメージだったけど。』

 

『はは・・・社内恋愛禁止の会社だぜ。恋愛原因で辞職するのはごめん!』

 

空笑いと共に、アスランはストレッチをやめた。
そんなに仕事が好きなの?
それとも仕事に生きることを決めたのかな?

 

髪をがしがし掻きながら、アスランが笑っていった。

 

『キラ・・・このままスーパー銭湯いかないか?俺、汗だくで・・・』

 

確かに僕も汗だく。
さらに、芝生の上に寝転んじゃったし・・・あぁ、背中が汚れていそうな予感がする。
このままアスランに家まで送ってもらっても、シャワー浴びて寝てしまうだろうし。
それならアスランに付き合ってもいいかな。

 

『いいけど・・・スーパー銭湯でもサウナにはいろうとしているんじゃない?』

 

『あぁ、それもいいね。岩盤浴とか?』

 

さわやかな笑顔をのせてこちらを振り向くアスランに、僕は一気にげんなりする。

 

『それって一日コースじゃん!』

 

あ・・・アスラン。
どこまで体脂肪落そうとしているの?
それとも単純に欲求不満で運動しないと体力消耗しないんじゃないの?!

 

.

 

『で・・・もう半年以上たったから話してくれてもいいんじゃない?カガリとの喧嘩の理由。
僕を一日連れ回しているんだからさ・・・』

 

長い時間、親友だからこそ言えること。
そろそろ触れなかった場所をつつきだしても答えてくれそうな雰囲気を、今日のアスランは持っていた。
僕の顔を一度見て、ポーカーフェイスを決め込んでいた彼の顔がゆっくりと溶けて行った。

 

『・・・そうだよな。
結局、岩盤浴も付きあわせちゃったよな・・・ラクス、約束キャンセルされて怒ってる?』

 

ラクスに対しては気が回るんだなぁ・・・まぁ、彼女は結構怒った時の沸点は高いけれど、マグマのようにとても冷めにくい体質なのをアスランもよく理解しているようだ。

 

『そんなに簡単に怒る彼女だと思う?』

 

『いや、怒っているなら俺、謝りにいこうかと・・・』

 

にこっと笑うアスランに対し、僕はいじわるを言ってみた。

 

『謝る相手と順番が違うんじゃない?アスラン?』

 

『・・・』

 

一気に罰が悪くなったアスランは視線を泳がせて黙ってしまった。

 

スーパー銭湯にきて、ひとしきり全身を洗った後、炭酸風呂に半身浴しながら、僕はアスランに話した。
まぁ、ラクスに連絡しても、その傍らには今日はカガリがいるわけだし・・・
ラクスに電話してそのままカガリにも謝ってしまえばいいんだ。

 

『・・・なぁ、キラ』

 

半身浴していたアスランが黙ったまま肩までつかりに浴槽の段を降りて行き・・・
熱くなったのか、再び半身浴している僕の隣に戻ってきて、ようやく口を開いた。

 

『もう、プロポーズ・・・した?』

 

あれ?僕はカガリと別れた理由を聞いているのに何でプロポーズ!?
え、どう答えればいいの?
カガリにプロポーズして、それで振られて別れたの?
え、同棲までしている相手にどうやったらNGのプロポーズができるわけ?

 

『ぇ・・・まぁ、普通にしたけど。結構微妙なタイミングで。』

 

『したんだ・・・プロポーズ・・・』

 

頭をガシガシしながら、溜息つきながら黙ってしまうアスラン。
それって、どういう意味?
おまえでもできたんだってこと?
・・・結構失礼な感じじゃない・・・?

 

・・・でも、カガリからプロポーズの話題なんて聞いていない。
二人でドラマ見ていた時も告白シーンで気まずい空気は流れなかったし。
あれ?気が付かなかっただけかな?
それとも、アスランは準備はしていたけれど結局ヘタレで・・・

 

『だから、俺がキラを連れ回していてもラクスはそんなに怒らないんだな、きっと・・・』

 

『ぇ・・・あ・・・うん』

 

今日はラクスをカガリのお泊り会だから、逆に僕がいない方が都合がよい日ということは知らない方がよさそう。
ちょっと寒くなってきた気がするので、肩までつかりに行こうと僕は中腰になった。
肩までつかり、全身に付着する炭酸の泡を手のひらで触って外す。
喧嘩の原因も・・・この泡のようにさっさと消えてしまえば・・・

 

君もカガリも苦しまなくて済むのにね、アスラン。

 

結局、口が重たくなってしまったアスランは、僕がラクスにプロポーズをしたことだけ聞いて、自分のことは全く話さなかった。
銭湯から出て、休憩所に隣接しているアジアンレストランでサラダをつまみにノンアルコールビールを二人で飲んでいたけれど、アスランはカガリとのことには一切触れず、最近ランチでいった店の話や携帯ゲームの話をひとしきりご機嫌で話していた。

 

アスラン。
君はこれからどうしたいの?

 

.

 

俺は短気だったのだろうか・・・
そんなにせっかち・・・いや、なんで当日あんなに焦っていたんだろう。

 

だって、同棲して何年?
お互い食べ物の好みも、動き出すタイミングも、笑い出す会話内容もわかっているのに。
どうして、あの時はあんなに怒ってしまったんだろう・・・

 

長く一緒にいるといつ、結婚するタイミングが来るのか期待してしまう。
そのタイミングを作るのは俺の役目だと思っていた。
だから、カジュアルレストランを予約してとか、ホテルディナーがいいのかとか・・・
いろんなことを考えて、それなりに勉強した。

 

一番いいのがやっぱりテーマパークでの告白。
彼女もテーマパークが好きだし、カジュアルレストランも予約できる。
それなりに女性が好みそうな雰囲気にすることだって出来るはずだ。

 

だから、仕事帰りにテーマパーク付属のホテルに宿泊し、そのまま翌日テーマパークで遊ばないかと誘った時、カガリは目を輝かせて二つ返事でOKしてくれた。

 

『久しぶりだから、とっても嬉しい!ありがとうアスラン』

 

そのあとは、何に乗るか、どの順番で乗ろうかと二人でおしゃべり。
そして、そのまま昔話をして・・・学生時代のシックスパッド大会は本当にすごかったと褒めてくれた。

 

だけど・・・

 

結局、カガリがホテルに到着したのは残業後の22時過ぎ。
ホテル内レストランでの食事もできず・・・カガリは疲れたといってすぐに休んでしまったんだ。
テーマパークが空いている平日日程で組んだこのプランがダメだったのだろうか・・・

 

その時は、明日、休みを取るために無理に仕事を終わらせてきたのだと思っていた。
だから、その日は・・・俺も我慢することができたんだ。
会社員なのだから仕方ないと。

 

でもさ・・・

 

俺にだって、当然のごとく我慢にも限界があったんだ。

 

.

 

『部下の1人がさ・・・取引先で大きなミスを起こしてしまったんだ。
アスランとホテルに泊まった日の午前中。』

 

ほどよくお酒がまわってきて、ようやく二人だけのパジャマパーティーが始まった。
二人でベッドの中に入りうつ伏せになったカガリさんは囁くように話し出した。

 

『その火消しで、ホテルのチェックインぎりぎりまで客先に謝りに行って・・・
あのとき、アスランに事情を話して全部をキャンセルすればよかったんだ。
でも、そこまで頭が回らなかったし、連絡する時間も・・・今、何度も考えても全くなかったんだ。』

 

彼女の黄金色の瞳はとても潤んでいた。
とても後悔しているというのはよくわかりました。
苦しそうに話す彼女の肩にそっと手をおくと、かすかに震えているのもわかりましたわ。

 

『多分・・・アスランは何か考えがあって、ホテルとって翌日テーマパークで遊ぼうとしていたんだ。
でも、翌日も私の会社携帯は鳴りっぱなしで・・・』

 

テーマパークで並んでいる間も鳴りっぱなしの電話。
結局、並んではキャンセル、並んではキャンセルで・・・

 

アスランも並ぶだけ無駄だから、しっかり腰を落ち着けて終わらせたら?と、最後にはベンチに私を座らせ、隣でコーヒーとポップコーンを食べていた。
視線は遠く・・・定時で動くパレードを眺めていた。

 

私が電話をかけている間、アスランも2回ほどプライベート携帯で電話をしていた。
謝っていたから何かをキャンセルしたのだろう。

 

何から何まで申し訳ないのに・・・
そんな気持ちは心の片隅にあった。

 

でも、取引先から怒られ、後輩からの電話には対応の指示、手順を話し。
上司からはどうしてこうなったのだと説明をさせられ、さらになんで休んだのかと咎められ。

 

心がボロボロになっていた。

 

『・・・帰るか。車で来ているし、電話してても大丈夫だから』

 

そう、アスランは何も悪いことを言っていない。
でも、この【電話してても大丈夫だから】という言葉が、ボロボロになった心に棘のようにいくつも刺さったのだ。

 

『悪かったな、電話ばかりしていて。
せっかくのデートをぶち壊して。』

 

口から一度出てしまったものは二度とは戻らない。
一気に不機嫌になったアスランの顔。
相変わらずなりやまない電話。

 

『・・・乗れよ、車に』

 

アスランに、吐き捨てるように冷たく言い放たれた。

 

.

 

『それからとんとん拍子で・・・アスランが売った喧嘩を見事に買ってくれて』

 

『別れ話になってしまったんですね』

 

『うん・・・』

 

『まだ・・・後悔しているんですか?』

 

『忘れようと合コンとか、婚活サイトのイベントに顔を出しているんだけどな・・・』

 

そう語ると、カガリは軽く鼻をすすった。
ラクスはティッシュペーパーのボックスをカガリの前に置き、一枚抜き取ってカガリに渡した。

 

『カガリさん・・・結婚願望あったのですか?それとも単純にアスランを忘れたいだけでしょうか?』

 

結婚願望・・・という言葉には反応がなかったカガリさん。
でも、アスランを忘れたいという言葉には一瞬だけ瞳孔が開いた。
本心は忘れたくないのですね。

 

『出会いを求めたいならば婚活パーティーですわねと伝えてしまった私も悪かったですが・・・結婚する気はないのでしょう?
私も・・・先日キラにプロポーズされたとき、それなりにキラを困らせていたのだと反省しましたわ』

 

『え・・・キラ、プロポーズしたの!?』

 

『えぇ、それも2回も!』

 

『に・・・2回!?』

 

『はい!一度目はさらっと・・・二回目は素敵な教会で!とても幸せな気分にさせていただきましたわ』

 

『えぇ・・・それじゃ、今年中に結婚式するの?』

 

『結婚式はしませんわ!』

 

にっこりカガリに笑いかけるラクスに、カガリは今の流行を追求するんだな・・・と感じた。
結婚式の写真撮影だけして、新しい家族との食事会。

 

『食事会だけにするのか?海外にいる両親を呼ばなくちゃ・・・あぁ、でも、父上は来るのかな・・・』

 

色々段取りを考え出すカガリに、ラクスはカガリの肩を叩いた。

 

『カガリさんはどうされるのですか?このままでは仲良し三人組の独身はカガリさんとアスランだけになってしまいますわよ』

 

『・・・そうだな。
キラが親友だからといってアスランを呼ぶ可能性は十分考えられるもんな。』

 

『カガリさん・・・そうじゃなくて・・・。
カガリさんは結婚したいのですか?結婚したいから婚活パーティーに行っていらっしゃるのですか?』

 

『・・・らくす』

 

口をつぐんでしまったカガリはしばらく黙ったままだった。
でも、おずおずと口を開き話し出した。

 

『始めはフリーだから、半分遊びのつもりで婚活パーティーに出ていた。
なんとなく気になるタイプの人間と数回デートもしたし、体も重ねた。
でも、な・・・
何かがひっかかるんだ。』

 

『・・・?』

 

『アスランならここで手を支えてくれたのに・・・とか、私の分も持ってきてくれたのに・・・とか。
付き合う人の悪いところ探してしまう訳じゃないんだ。
そのヒトもとてもいい人なんだ。
でもっ!』

 

カガリは自分の前に合ったティッシュペーパーボックスから慌ててティシュを掴んだ。
目尻から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 

『どこかにアスランの影を探してしまうんだ。どうしても!』

 

『カガリさん・・・それはやっぱりまだ、アスランのことが・・・』
好きなのだと、私は思いますよ。

 

うつ伏せになって泣き出してしまったカガリの肩をとんとん叩くラクスは、そっとカガリの耳元でささやくのだった。

 

.

 

会議室の扉をそっとしめ、心の中ではガッツポーズ。
今日のメイン業務は終わったも同然。
左手でノートパソコンを抱え、俺はワイシャツの第一ボタンを外した。

 

『ようやく会議が終わったな・・・よかったじゃないか、常務も納得されていた。』

 

共に部屋を出た女性上司からも明るい声をかけられる。
上司の持っていた紙資料を受け取るべく手を差し伸べると、遠慮されることもなくどっさりと渡された。
会議がうまく行くと渡してくれるが、風向きが怪しいと渡してもらえない時がある。
何気ない彼女の感情バロメーター。
気分がよさそうなら、ちょっと大口を叩いても冗談として理解してもらえる。

 

『はい。自分でも今回はうまく行ったと。』

 

『・・・相変わらず減らず口だな、ザラ』

 

『お褒めに預かりまして光栄です。バジルールさん』

 

仕事においては順調に航行中。
出世コースを狙っているわけではないが、少しずつステップアップして自分の出来る範囲を広げていけばよいと考えているくらい。
会社役員に覚えられると自分の時間がなくなっていくし、どちらかというと早々旨味があるわけじゃない。
退社していった先輩方の軌跡を見ていれば十分理解できることのひとつでもあった。

 

『来週の月曜の会議提出用の資料は?今回のを手直しするだけでいけるのか?』

 

『いえ、価格面についての訴求をもう少し追加しておいた方が、早く会議が終わるかと思います。
ちょっと手間はかかりますが』

 

『出来そうか?』

 

出来ないと泣き言を言っても手伝ってくれる上司ではないことはわかっている。
全体的な作業工程を考えても1日あればなんとかなるはず。
それに今、定時で終わらせないと自分自身が回らなくなる。

 

『今日は木曜日ですからね、あと1日あればなんとかなるでしょう。』

 

俺は楽観的に回答すると、上司は宜しくとばかりに肩を叩いてきた。
これでも信頼してるってことなのかな。

 

取締役会会議が長引き、予定時間を若干押している。
あと20分後にはチームミーティング・・・
お昼からは他部署との週に1度のランチミーティング・・・
社内のエントランスホールを横切りながら俺は部長と共に会話しながら歩いていた。

 

『ザラさん』

 

『何?』

 

エントランス受付業務の子から声をかけられる。

 

『あの、お客様で・・・どうやら飛び入りのようですが・・・』

 

今日は総務のアビーが担当なんだ。
俺の番は来週午後・・・何曜日だっけ?
受付業務は会社内での持ち回り。
さすがに部長以上の役職クラスが受付を行うことはあまりないが、年に1度は社長も受付を行う時がある。
どんな会社と取引しているのかを体験することが大事だと・・・不景気以降の伝統行事となっている。
えっと・・・そうそう、飛び入り・・・営業部でもないから自分の名刺なんてほとんど配ることがない。
なんだ?どこぞのセールスマンがどうでもいい新商品の紹介とばかりに飛び込み営業でもきたのか?

 

受付の子の視点の先を目で追ってみる。
ロビーに作られた待合席用も兼ねた小さなミーティングスペース。

 

『飛び入り・・・ぇ・・・』

 

ヲイヲイ・・・
なんでここにいるんだよこいつ。

 

『おい、ザラ・・・』

 

瞬間、絶句した俺に気が付いたバジルール部長が声をかけてくる。
雲行きの怪しさを悟ったのかもしれない。
さすが・・・女性だよなぁ、勘が鋭い。

 

『部長、ミーティングは予定通りでお願いします。』

 

俺もこういうしかない。
今は職場の雰囲気を壊さない最大の努力が大事。
そして、厄介そうなものはどんどん片付けて行かないと・・・

 

『あぁ、わかった。先に行くぞ。』

 

部長が歩いていくのを感じつつ、俺は小声で受付のアビーに話しかける。

 

『どこか空いている会議室ない?それと、俺が会議室に入って10分経ったらそこに電話いれてくれない?』

 

『10分ですか・・・この会議室ならば30分ぐらいは予約できそうですね。予約とりました。』

 

『ありがとう。じゃ、10分後にお願い。』

 

いつもの社内用営業スマイルをアビーに送る。
そして俺は狭いロビーのミーティングスペースに座る金髪の女性に声をかけた。

 

『お待たせしましたヒビキさん、どうぞこちらに』

 

.

 

先にカガリ・ヒビキを会議室に通し、俺は後ろ手で鍵を閉めた。
急な予約を入れたから、社員でも誰が入ってくるのかわかりゃしない。

 

『空いてる席座りなよ』

 

俺は冷たく言った。
片手で持っているとはいえ、手に負担がかかってきたノートパソコンや資料をテーブルに置く。
テーブルに軽く座り、スーツのジャケットボタンを外して、役員会議の後の重圧から少しでも体をリラックスさせようとした。

 

『何しに来たんだよ、俺の職場に』

 

『すまん』

 

『回答になっていない』

 

『ぁ・・・謝りたくて・・・電話じゃ、切られてしまうかと思って・・・直接、顔を見て・・・』

 

『電話、かけてもこないのに切られると思い込んでのこの行動?』

 

俺は思わず睨んだ。
短絡的すぎる。
なんか、色々矛盾していないか?
電話番号とか、メールアドレスとか、各種SNSとか・・
正直、カガリ一人のために全部変えるほど、俺は暇な人間ではないんだが・・・。

 

『だって・・・私たちが住んでいた部屋、今は空き部屋になっているじゃないか!』

 

『ぁ・・・』

 

そういや、部屋が広すぎるから引越したんだっけ。
キラとは外で会っていたから、キラにも伝えていなかったのを思い出した。
じゃ、カガリにも引越したこと・・・伝わるハズなかったな。
なるほど、だから電話もかけずらかったし、各種SNSでも連絡しなかったわけか・・・。

 

『キラを巻き込んでお前呼び出すわけにもいかないし。
だからこうしてお前の職場に来るしか・・・』

 

『で、俺に会ってどうしたいんだよ』

 

『だから・・・ごめん。
私が悪かった。』

 

しおらしく謝罪する彼女の姿は初めてみたかもしれない。
相変わらず、主語がはっきりしていないから、何に対して謝っているのかわからないけれど。
でも、俺はそんな彼女の姿はあまり好きではなかった。
いくらでも隙があって・・・
抱きしめてやりたくなるような、そんな表情。
無意識に手を伸ばそうとした行動。
俺は冷静になって思いとどまった。

 

だって。
壊れた時間はもう・・・戻ってこない。
俺の気持ちも・・・あの時と同じ気持ちにはもうならない。
喧嘩する前ならば、直ぐに手を伸ばして抱きしめて、きっとキスもするだろう。
もう、今更・・・
時間が経ちすぎたんだ。
俺の生活も既に変わってしまい、数か月が過ぎていた。

 

だいたい、謝りにくるってどういう心境なんだ?
俺たちは終わったんだよな?
半年以上たっても、まだ未練があるとでもいうのか・・・
俺も・・・ないと言えば嘘になるけど・・・

 

キラから聞いたのは毎週カガリは家にいないと聞いていた。
それは何をしてたの?
すぐ・・・他に男を作っていたんじゃないの?

 

いっそ・・・俺。
嫌われれば楽になるのではないか?
こんな茶番劇・・・

 

俺は腰かけていたテーブルから立ち上がり、カガリに近づきそのまま机に押し倒した。

 

『きゃ・・・ぇ・・・んぐ・・・』

 

思いっきり噛みつくようにキスをした。

 

『俺の職場に入ってきて・・・ヤられたいのか?』

 

『ん・・そんなつもりじゃ・・・ただ、謝りに・・・』

 

『もう、終わったことだよ、カガリ。
それにそんな顔してくるな。
俺たちはもう・・・』

 

コーナーに設置してある内線電話が鳴りだした。
机に押さえつけたカガリから手を離し、俺は髪を掻き上げる。
アビーに内線鳴らすように頼んでおいてよかった・・・じゃなかったら、俺・・・軽く犯罪者・・・

 

『タイムアップだ。早く身なり整えろよ。』

 

俺はポケットから出したミニタオルで彼女のグロスがついた唇を拭き取った。
若干乱れた着衣を整えたカガリは、さっさと書類とノートパソコンを横脇に抱え込んだ俺の腕を引っ張った。

 

『アスラン!私・・まだ・・・』

 

『お客様、大変申し訳ございませんが・・・実は飛び込み営業には弊社は対応していないので、今回はお引き取りください。』

 

職場でまで・・・君のことを考えていられる程、今の俺には余裕がない。
好きという感情は・・・百歩譲ってあるのかもしれない。
でも、その中身は空ろで、叩けば壊れそうなガラスの卵に近い。

 

『アスラン!!』

 

『・・・お引き取りください』

 

俺は会議室の扉を開けて、カガリに出るように強引に促した。
もう会いたくない。
会話したくない。
せっかく忘れようとした感情を思い起こさせないで。
これ以上・・・苦しい思いをしたくないんだ。

 

.

 

『おいザラ・・・』

 

『・・・はい、部長・・・』

 

はぁ・・・と軽く溜息を吐く。
ランチミーティングが終わってから、俺の方をみては囁く女子が複数いるのはわかっていた。
特に、俺のマーケティング部署は女性陣が他の部署よりも多いので、何かあるとこそこそ話に花が咲く。
あまり・・・その・・・色恋沙汰に興味がないバジルール部長の目にもとまるぐらい。

 

社内の壁掛時計に目をやり、きりがいい時間まであと15分弱。
価格訴求の資料作成用の社内データをノートパソコンのフォルダにコピーしていく。
大きく溜息をつきながら、俺は椅子から立ち上がり部長席に向い、頭を下げる。

 

『これから時間給もらってもいいですか?』

 

『・・・ん?』

 

明らかに何を言いだすのだと眉をしかめる不快な顔。
そんなバジルール部長の顔も長い上下関係の末、慣れてきている。
へらっと笑って、俺は口を開いた。

 

『事態の収拾をつけるので・・・それと明日も休みにしていいでしょうか?』

 

事態の収拾か・・・部長の視点は俺から外れ、デスクで作業をしている他の社員を眺めていた。
モノの陰になっている社員は、こそこそ何かを話しながら、業務を続けている音が聞こえる。
確かにいつもに比べて騒々しいという視点をあからさまに今後は俺に向けてくる。

 

『明日も・・・お前、会議資料はどうする?』

 

ランチミーティング後にこんなことになっていなければ明日金曜の夕方にはできていたはずなのに。
残念ながら作業時間はたらない。
ほぼ、一日半、休むことになる。

 

『・・・土曜出勤を。PCの持ち帰り許可を願います。』

 

PCを持ち帰り、自宅勤務申請を出すしかない。
俺のせっかくの休みが・・・仕事に消えるのは正直嫌だが、ここで女子社員のコソコソ話を無視していると、今度は社内に敵が一気に増えていくことになる。

 

『まぁ・・・これじゃ、どうしようもないよな。』

 

部長の視線を感じたのか、一部の女子のこそこそ話は沈黙した。
でも、事態が収まるとは言えないだろう。
俺が給湯室に行こうものなら、なんで?なんで?と知りたがりの虫をいっぱい飼っている方が聞いてくるに違いない。
そんな光景が頭に思い浮かんで俺は多少ブルーになる。

 

『えぇ・・・まぁ・・・』

 

 

『何事もスマートにやるお前にしては・・・たまには失敗もするんだな。』

 

ふっと笑った女性部長。
別に女っ気がないとは思われていなかったようなのがちょっとの救い。
特に彼女がいるとかいないとかは今まで話したことはないけれど・・・
やっぱり、お前男だったんだと言うような視線を感じる。

 

『・・・楽しまないでください。』

 

『土曜出勤、許可する。仕方ないから、資料データはメールで送っておいてくれ。
私も自宅で内容を確認するようにする。』

 

『申し訳ございません。』

 

俺はこれでもかというぐらい、深々と頭を下げた。
これでひとつ貸しを作ったようなものだ。
何か言われてしまったら・・・次は多少嫌な事でも了承しなくちゃいけないだろうな。

 

『一日休みを許可しているのだから、しっかり事態収拾してくるように・・・いいな』

 

『承知しました。部長。』

 

意外にバジルールさん、理解あるんじゃんとは思うけど。
まぁ、こんなに同僚が騒いでいれば・・・仕事にならないと思われたんだろうな。

 

しかしさ、一日で恋愛問題が解決するなら、ロミオとジュリエットなんて生まれないだろう。
毒薬まで手を出してお互いの愛を貫くには数日はかかる。
ましてや片思いに苦しむのが一日で終わるなんて・・・まったくありえない。
一日で事態収拾って・・・とりあえず、このフロアのお姫様の前で、王子様気取りをしてハッピーエンドな幕引きを見せろってことなのか?

 

この女性宰相・・・依頼内容、ハードル高すぎ。
俺、そんなヒーローっていう器じゃないのに。

 

.

 

 

『お客様は1名様ですか?』

 

『あ、待ち合わせ。中、入っていい?』

 

俺は一本電話を入れながら喫茶店に入った。
カガリと別れてから、定時後毎日行くところが出来ていた。
しかし今日はほぼ無理だろう。
いつも引取に行くデータを伝えたアドレスに送るよう話し、一定の数値以下になったらアラートとして電話連絡するようも伝えた。

 

『どうぞ』

 

 

会社がある敷地の道路を挟んで向かい側にある喫茶店。
俺もよくランチで使ったりする店。
その窓際の席で彼女はコーヒーカップを前に肘をついた手に頬をのせて、車の流れを眺めていた。

 

 

『出るぞ、カガリ』

 

 

『ぇ・・・あ・・・アスラン?』

 

 

『早く上着着ろ』

 

 

俺は机に伏せてある伝票を手にし、声をかけた。

 

『なんで・・・だって、まだ仕事中じゃ・・・』

 

『俺の職務室から丸見えなんだよ、お前。
同僚が俺の後ろでこそこそ話していて、仕事に集中できないから抜けてきた。』

 

『ぇ・・・あ・・・ごめん。
そんなつもりじゃなかったんだ。』

 

『この店じゃ会社から丸見えだから・・・場所変えるぞ。』

 

『あ・・・会計。』

 

『いいよ、出すから。』

 

俺はさっさとカガリの鞄を持ち、飲食費の精算をする。
カガリを待たずに店を出て、通りを走るタクシーを止めた。

 

『カガリ乗って』

 

『ぇ・・・アスラン・・・なんで・・』

 

『いいから乗って』

 

後部座席にカガリを押し込み、俺もタクシーに乗り込む。

 

『どちらに行きますか』

 

変な気配を感じたのだろう。
タクシードライバーはこちらを振り向かずにさっさと料金ボタンの設定を始めた。
どこって・・・とりあえず、この場所からは離れたい。
個室で落ち着いて話せそうな・・・
・・・くそ、完全に予定外出費だ。

 

『スターリゾートホテルへ』

 

『・・・すたーりぞーと・・・』

 

カガリが口をぽかんとしているのを俺は目の端に入れた。
そりゃそうだろ。
最近できた有名ホテルのひとつだ。
頭に浮かんだホテルの名前がそこしかなかったから仕方ないとはいえ・・・
さっさと会社付近から離れたいし。

 

『カガリの家に行くわけにもいかないし、俺の家も嫌だから・・・二人で話せる場所にいかなくちゃ、どうにもならないだろ』

・・・喫茶店で話す内容でもないし、俺たち会社員なんだから・・・

 

そう、俺はカガリとは目を合わせずに呟いたのだった。

 

.

 

『で・・・俺の職場まで来て、俺に早退させてまで何を謝りたいんだよ。』

 

ホテルの一室。
アスランは慣れたようにさっさとジャケットを脱ぎ背もたれに掛けた。
メニューオーダー表をみつけて、しばらく眺めていたかと思うと私に渡してきた。

 

その間にネクタイを緩め、ワイシャツの一番上のボタンを外す。

 

『・・・コーヒーで。』

 

『食べ物は?』

 

『いらない。』

 

さっきの喫茶店での会計もアスラン持ち。
このホテルだって・・・チェックインするときにさっさとサインをしていた。
もう・・・私たちは付き合っている訳ではない。
リセットされているのだから、この無駄な優しさに飲み込まれてもいけないのだ。

 

『ブラックコーヒーばっかり飲んでいるとまた、お腹痛くするぞ』

 

そういうと、アスランはルームサービスを頼んだ。
あぁ・・・ダメだ・・・
アスランのリズムに飲み込まれる。

 

私は謝った後、なんていえばいいんだ。
やっぱり忘れられない・・・と、伝えていいのだろうか。

 

.

 

『俺、コンビニ行ってくる』

 

ジャケットを着てから緩めていたネクタイを外して胸ポケットにいれる。
通勤時に使用している鞄から財布だけ取り、ポケットに突っ込む。

 

『カガリは・・・行く?ここで待つ?』

 

赤くなった目をこすりながらこくこく頷き、彼女も立ちあがった。
ホテルロビーを抜け、二区画離れているコンビニに俺は向かった。
後からついてくる元彼女のカガリに対しても腹はたっていた。
それよりもなによりも・・・やっぱり自分にも腹は立っていた。
正直、どうやって鎮めればよいのかわからない。

 

ルームサービスで頼んだホットコーヒー二つとアフタヌーンティーセット。
一口台のミニケーキやスコーン、フルーツタルトが宝石箱のように盛り合わせてある。
泥沼化した俺とカガリの関係とは正反対で、ただ純粋な美しさを放っていた。

 

小腹がすいていた俺は、さっさとチーズとバジルのスコーンをつまみ、ブラックコーヒーを流し込んだ。
カガリは・・・昔なら手を付けていただろうケーキたちを見向きもせず・・・。
相変わらず主語がないまま悪かったと告げ・・・
同棲を解消して、キラがいる実家に戻ってからの半年間の生活を語りだした。

 

聞いていて堪えられなくなったのは俺。
俺の空気を悟って、涙を流し出したカガリ。
いや、自身で気が付いたのではないか?
自分の行動が俺を傷つけていたということ。

 

カガリの話の内容によっては、夜にならずとも自宅へ帰ろうと考えていた。
理性的ではないと言われればそうなのかもしれない。
俺の中ではどこかに正しい回答があるのかはわからない。
でも・・・
俺の中で、カガリが他の誰かに抱かれたということだけが、どうしても許すことができなかった。

 

『必要なもの入れなよ』

 

俺はそう、カガリに伝え俺は避妊具の箱を速攻買い物カゴに投げ入れた。
彼女の体が一瞬びくんと震えたのが目の端に入ってしまう。
俺は自分の肌着を一通りかごに突っこみ・・・カガリが何もいれていないことに気が付く。

 

『何・・・遠慮してるんだよ・・・鞄に化粧品ははいっているの?』

 

問いかけると真っ赤になるカガリに、適当にぶら下がっている女性物肌着をカゴに入れて行った。
レジに預けて代金を払う。
さっさと歩きだした俺の後を、カガリは小走りでついてきた。

 

『・・・買ったもので、俺が何をするのかわかっただろ』

 

『・・・』

 

『怖い?逃げたければ逃げてもいいと、俺は思ってる。』

 

『・・・』

 

何も会話がないままホテルの部屋に戻り・・・
俺は部屋に入った瞬間、カガリを床に倒して服をはぎ取って行った。

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

まだ・・・頭がぼんやりとする。
身体の節々がだるく、トイレに行くのに数歩歩くのすらとても億劫になる。

 

他の男の癖なんかつけるな・・・カガリ・・・

 

背後から抱きしめられそのまま頂点に昇りつめられるまで攻められ。
耳元でささやかれた言葉。

 

すっかり忘れ切っていたアスランの独占欲。
この独占欲が心地よくて・・・同棲が続いたのかもしれない。

 

ホテル備品のガウンを着て、私は痛む腹部を構うように床に散らばった使用済み避妊具を拾ってゴミ箱に捨てだした。
・・・もしかして・・・全部使い切ったんじゃ・・・
そんな恐れがあるほどにたくさん散らばっていて。

 

今でも体調が悪くなると困るからと、一緒に暮らしていた時と同じようにピルは飲み続けていた。
その時、アスランは中に出すことは全くしなかったし、避妊具もつけることはなかった。
むしろ、私を酔わすことが主流で、自分のことは二の次という状態。

 

なのに今回は・・・
私は謝罪したけれど、アスランの中ではまだ許せていなかったのかもしれない。
自分の体につけられた跡をみれば・・・その怒りがなんだったのかも容易にわかる。
アスランの表面には全く出さなかった未練も。
そして、自分のものではないと割り切った気持ちからであろう避妊具・・・
行為は情熱的であったとしても、皮膚一枚下は冷たいままなのが想像できた。

 

キラの部屋に遊びに来ていたアスランに赤いリップを貸してと言われたあの日。
帰り際に謝っておけばよかった。
あの時ならば、ここまで彼を傷つけ、怒らせることはなかった。

 

脱ぎ散らかした服をひとつづつ拾い、椅子の背にかける。
アスランのスーツも・・・椅子の背もたれにかけだすと、傾いていた鞄が椅子から落ちてきた。
会社のかしら・・・ノートパソコンと、ボールペンが散らばり、それと・・・

 

え・・・これって・・・
箱の形状で何が入っているのかは予想がついた。
開けてはいけないと思う心とは裏腹に、自分の予想があっているのか・・・小箱に手を伸ばし、開けてみる。

 

 

 

予想通りの結論に、一気に涙が噴き出てきて世界が滲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい・・・アスラン・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

何かが落ちる物音がした。
疲れきって寝た割には意識が戻るのが早い。
目をゆっくりと開けて、視点を定める。
手前に広がるのはよれたシーツの波。

 

もう・・・起きたのか、カガリ。
彼女の存在を探そうと俺はゆっくりと起き上がり、そして固まっている彼女と彼女の手の中にあるものを見て、一気に眠気が吹き飛んだ。

 

『か・・・がり・・・どうしてそれ・・・』

 

俺の声に驚いたのか、派手に体を硬直させた。
こちらをゆっくり向いた彼女の表情は、照明を極力暗くしたルーム照明ではよく見えなかった。
しかし、瞬間、頬が煌めいているのを俺は見逃さなかった。

 

『あ、ご・・・ごめんアスラン。
さっき、鞄を落としちゃって、そしたらこれが落ちてて・・・これ・・これって』

 

震える声・・・泣いているのか、カガリ?
ごめん・・・俺が・・・悪かった・・・

 

『見ての通りだよ。中には指輪が入っている。』

 

俺はベッドの上で毅然と言い放った。
カガリとあの日喧嘩しなければ・・・告白するつもりだったエンゲージリング。
もう戻らない過去の遺物。
どうするべきかと考え、悩み、そのまま鞄に放り込んでおいたものがこんなタイミングででてくることになるとは。
ベッドの上に座り込んだ俺は、膝を胸に引き寄せる。
思わず、深いため息を吐いてしまう。

 

『どうすればいいのかわからず、鞄に入れてあったものだ。
俺はそんなものつけられないし、君の指にしかはいらないものだから俺はいらない。
欲しいならあげるよ。』

 

『ぁ・・・アスラン?』

 

カガリも何かに気が付いたらしい。
そりゃそうだろう。
エンゲージリングを肴に話すにはにつかわしくないビターな話。
俺は左膝を抱え、おでこをくっつけた。
カガリには視線を向けられない。

 

『それを受け取ったところで俺は君を束縛しない。
俺は今・・・結婚とか・・・そんな気分にはもうなれないんだ』

 

『ぇ・・・』

 

『カガリは、俺に謝った後どうなるのが理想だった?
君は・・・理由は何であれ、仕事と俺を天秤にかけて最終的に仕事をとったんだろ。
俺とまた、以前のようによりを戻してハッピーエンドを期待していたの?』

 

俺は何でこんなに意地の悪い言葉を、泣いている彼女に言うんだろう。
気を張らなくては声が震えてしまいそうな・・・俺だってそんな精神状態なのを、まだ愛している彼女に隠してまで言うべきものなのか?
でも、今の俺は彼女を支えられない。
今更だけど、あの時がもしかしたら唯一のチャンスだったんだ。
俺は胸からこみあげてくる苦い思いを飲み込んだ。

 

『は・・・・・ハッピーエンドってわけじゃないけれど・・・でも、また、会えるようになったらいいと・・・』

 

『会えるようになったら・・・か・・・』

 

俺は左膝を立ててたのを右膝を立てることにかえた。
右手で髪をかきあげてそのまま右膝のうえに右肘をのせ、彼女を見ずに提案した。

 

『しばらく、セフレでいいんじゃないか?』

 

俺も君を拘束しない。
君も俺に拘束はされない。
婚活して、好きな相手を見つけたら俺を切り捨てていい。
仕事に生きたかったら、それでもいいと思う。

 

『い・・・そんなのいやだ・・・』

 

涙でかすれたカガリの声が耳に入る。

 

カガリが家庭を持ちたくなったらその指輪を身に着ければいいさ。
誰と家庭を築きたくなるかは、今の俺にはわからないけれど。
でも、好きなことは好きなんだ。
まだ、愛してる。
でも、幸せにできるの?
今の俺、彼女を支えられるの?
俺よりもワークホリックな彼女を・・・

 

『カガリの隣に俺が立ちたいっていう欲望、今の俺にはもう・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・もう、これ以上・・・俺を惨めにさせないで・・・

 

 

 

 

20180318

 

 

.

 

 

【編集後記】

 

心が泣きたい方へのアスカガ
 

【fuzz connection】第四部
社会人パロ。学生時代から交際していた30代のアスランとカガリ。カガリの行いをきっかけにアスランとカガリは別れてしまう。
 

………Lost Paradise
本編沿い。SEED25話前後の内容。アスランの回顧録。
 

ガンダムSEED、SEEDDESTINY本編沿いのお話。
各シリーズをまとめたリンク集です。気になるお話は見つかるでしょうか。
 

 

 

社会人パロの続き。

幸せなキララクとは異なり、カガリにセフレ提案するアスラン。

こんな状態で次回に続けていいものなのか・・・

次回も泥沼サービスしかない。

 

 

20180318ねじ

 

心がときめきたい方へのアスカガ
 

蠍座と乙女座の因数分解
蠍座と乙女座の平衡定数のパロディ話。一発ギャグが大量に書かれています。
 

early summer rain
学生パロディ。本が好きなカガリとアスランの話。
 

Black or White-晴れ間の向こうに-
本編沿いの話。保たれた平和の中で、コペルニクスの幼年学校の同級生と出会ったキラとアスラン。
結婚式の招待状を送ると言われてしまう。
 

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