社会人パロ

【fuzz connection】第五部

 

 

 

 
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【【fuzz connection】第五部】

 

 

 

 

 

 

『ところで、総務からこんな連絡をいただいたのだが・・・』

 

週明けの火曜日。
先週は木曜日夕方から金曜日まで衝動的に休み。
土曜日は自宅勤務で会議書類を書き上げ、なんとか月曜日の会議もなんとか乗り切れた。
仕事上は。

 

精神的には結構ボロボロで。
泣き止まないカガリを抱きしめて、なんとか落ち着かせてから家に送ったけれど。
俺も実際、彼女とこれからどんな関係を紡いでいくべきか悩んでいた。
あのまま・・・どうせならプロポーズしておくべきだったのか?
いや、でも・・・状況的には俺の方が悪いんだ、色んな意味で。
幸せの落としどころってどこだろう・・・
そんなことを延々と考えながら過ごした週末だった。

 

『へぇ・・・保養所縮小・・・保養所なんてあったんですね・・・』

 

興味半分に書類を覗いてきたフレイに資料をそのまま渡す。
俺は知っていたけれど、行きたい場所に保養所がなかったから利用したことがなかった。
だいたい、カガリと同棲しているんだし、彼女が隣で笑ってくれていれば・・・行き当たりばったりの旅行でも楽しめたのだ。

 

『実際に利用している人数が少ないため、福利厚生費を他の分野に補填しようかという考えも出ている。
しかし、同じ費用を投じるならば、やはり保養所の方が手続きも用意な上、他の分野へ費用を投じても空振りになる可能性が高い。
ならば、マーケティング部にリサーチさせて、その結果を社内広報に載せることで利用の活性化をさせようと考えたようだ。』

 

『それじゃ!私達、リサーチする時は会社の経費で泊まれるってことですか?』

 

一通り・・・資料に目を通したフレイが喜びの声を上げる。
バジルール部長は口角をあげて、良い反応がきたと喜んでいる。

 

『正直、どこまで経費が出るかわからないが、最低限の保養所契約金額分だけは出費してくれるだろう。
1泊3000円程度だがな。』

 

『3000円かぁ・・・これ、単純に女子旅にしていいのでしょうか?』

 

ん・・・なんか多数の視線を感じるんだが・・・
女子会でいいんじゃないのか?こういうの・・・

 

『うちの部署はほぼ女子だからな・・・』

 

部長の視線までこちらに向いてくる。
なんでマーケティング部署が男は俺ひとりだっていうのにこんな企画を持ってくるんだ?

 

『会社構成員としては3対2ぐらいか、既婚者も含めると。』

 

『・・・部長・・・嫌な予感しか感じなくなっているのですが・・・』

 

俺は小言を言ってみる。
その声を聞いて、やはりバジルール部長は口角をあげてにっこり笑った。
もう・・・すでに、彼女の頭の中ではプランが動いている。

 

『ひとつは女子会+男子で総務に提案してみよう。
もちろん寝る部屋は別に取らせるから安心しろ、ザラ。
時期的には少し早いが、暑気払いとして部会計上すれば飲食費ぐらいは経費で出るだろう。』

 

さすが部長。
最近女子会+男子が流行っているというところを確実に抑えてくるもんな。
男子がひとり入ることで、女子の下品な側面の会話がなくなる上、男子がひたすら聞き役となったり、同じ年代の流行トークで盛り上がって楽しく過ごせるそうだ。
それってさ・・・俺が終日ホストって感じになるんじゃないのか?

 

『部長。保養所って、マンションオーナーも使用できるリゾートも含まれていましたっけ?
それなら広報も混ぜたほうが面白そうですが・・・』

 

さすが、着眼点ナイス。
賃貸として貸し出す側にプラスアルファのプレゼントが届く。
他の賃貸オーナーたちとの企業差別化も出来る点で営業もしやすくなるね。

 

『それもそうだな・・・しかし、ベースプランはこちらで作成した上で提案する流れは変わらんだろう。
1週間以内に立案したい人間はいるか?
プラン数は全部で5つ、そのうちの3つは採用させる見込み。
考えの偏りを考慮するため、2人以上の挙手を願いたい。』

 

.

 

『で・・・弄られナイト?』

 

『そ、乙女女子と残念な男のパーティーナイト。』

 

居酒屋の小さなテーブルにつまみを三品並べ、ビールを飲む。
キラもだいぶ痩せてきたので、ようやく飲んでもよいとラクスから許可が出たと言って、飲み会連絡がきたのだった。
婚約期間とはいえ、既にラクスの許可を待たないと飲みに行けない関係になっている。
面白いな・・・キラ。
既に籍も入れる前から管理されている。
カガリと同棲はしていたけれど、そこまでお互いを管理することはなかったし、どちらかというとシェアできる時間を一緒に楽しもうと言う関係だった。
だからダラダラ過ごしてしまったと言われてしまえばそれまでなのだが・・・
でも、毎日へとへとになって帰ってくる彼女に仕事を辞めて俺と一緒になってくれとは・・・
傲慢な気がして言えなかったんだよな。

 

『けっこう・・・聞いている方も大変なんだぜ。』

 

俺は首をすくめてキラにアピールしてみせた。
部署で旅行・・・ほぼ女性陣の話を聞くと言う、疲れそうで疲れない話。
今、付き合っている彼氏にこんなこと言われたけど、男性視点としてはあおれが一般的なの?
口紅変えたらどう感じるの?
とか、女性視点だとこんな感じだけど、男性視点だとどう感じるの?
普段聞けない男性トークを聞きたくて、みんなうずうずしているような感じ。
ただ、頷くだけの女子トークと思っていたけど、全然違う流れだった。

 

『ふぅん・・・で、どんなことしてたの?』

 

どうやらキラの好奇心の芽に振れてしまったらしい。

 

 

『始めはホテルの夕食からかな・・・食べ放題だったし、どれがおいしいかを話しながら、いつデザートを食べるかのタイミングとかね。
もちろん、インスタ用の写真撮る子もいたから、そこでどの角度から撮るのが好きかとか、いいねが多くもらえるとか・・・』

 

瞳をキラキラさせ始めたキラ。
実際は俺なんかよりも趣味幅が浅く広いキラの方が楽しめたんじゃないかと思う。
俺も面白がって同僚の子が教えてくれるインスタ写真の撮り方を真似て何枚か撮影した料理をキラに見せた。

 

『ねぇ、アスラン!このビールジョッキ撮影する時はどうすればいいの?』

 

『えっと・・・まず、は・・・角度を変えて・・・フレームから見切るようにする?』

 

男二人、半分飲んでしまったビールジョッキを題材にインスタ写真講座。
仕事内容について話し合っている隣のテーブルとは異なり、なんか俺たち中学生のようなノリで携帯カメラで遊んでる。
出てくる料理をひとつずつ、インスタ写真だと喜んで撮影会をしながら、キラは宿泊した部屋はどんな感じだったの?隣の部屋?夜這いできた?と軽く聞いてくる。

 

『ホテルっていっても1室借りのホテルだから、3LDKみたいな部屋で。俺はすぐに部屋を決められちゃったけど。』

 

『へぇ・・・』

 

俺は鼈甲色によく煮込まれた肉味噌添えのふろふき大根を、店員が一緒に持ってきたナイフとフォークで一口大に切り分ける。
キラは小さくなった大根に肉味噌をたっぷりのせて口に運ぶ。
口の端についた挽肉を指先で取り、一瞬考えてからおしぼりで拭き取った。

 

『男ひとりだし、警備員って感じで玄関からすぐのところに部屋決められちゃって。
あとの二部屋を女子たちでじゃんけんで決めてたから、それはそれで見ていても楽しそうだったよ。』

 

『なんか、修学旅行っぽい。でも、部屋着はどうしていたの?パジャマ持参?』

 

『一応、持ってはいったけどさ。
さすがに・・・浴衣で俺もうろうろは出来ないからとは思ったけど、その辺りはルール決めなかったからな。
女子たちが浴衣で歩きだしちゃったから、俺はどうすればいいか思わず聞いちゃった。』

 

『あははは・・・なんか、動揺してるアスランが目に浮かぶ』

 

キラがたっぷりのせていた肉味噌の味が気になり、箸の先に少し摘まんで口の中に入れる。
げ・・・思ったよりも濃い味付け。
まぁ・・・お酒のつまみだから濃くされていても当然と言えば当然だけど。

 

『悪かったな。
でも、なんらかんら、12時ちかくまでリビングで話していて・・・
寝たのはその後だし。眠気覚ましに温泉行って・・・そのあと、広報からリクエストがあったホテル近辺の観光ドライバー・・・
駅で返却するタイプのレンタカーだったからよかったけど、このまま都内まで運転して帰るのだったらリポD3本ぐらい飲んでおかないとエネルギー不足で何もできなかったと思う。』

 

俺はジョッキに残っていたビールを飲み干す。
キラもジョッキを空け、ビールにするか、焼酎ボトルにするか聞いてくる。
ボトル入れる?でも、ボトル保存、1ヶ月しかないぜ?
今月もう一回、飲み会の許可、ラクス出してくれるの?
俺、冷酒飲みたいんだよね・・・一緒に水、頼んでもいいかな。
え・・・カガリ?ぁ・・・カガリ・・・のね・・・わかった。話すから・・・焼き鳥冷えるから先、食べていい?

 

『あともう一つの企画はディンクス企画で・・・部署の人間が気を使ってくれてと、言うと聞こえはいいけれどさ。
彼女と一緒に行って来いって話になっちゃって。』

 

『彼女?アスラン、会社に彼女がいるって話しているの?』

 

まさか、カガリが俺の会社に直アポとってきたなんて・・・さすがにまだ言えない。
カガリから聞いていないんなら・・・なるべく言わない方がいいに決まってる。

 

『ぇ・・・あ・・・まぁ、なんとなく女性は勘がいいっていうじゃないか。』

 

お酒の勢いもあって、キラはそうだよねとにっこり笑って居酒屋のメニュー表を眺めていた。
漬物の盛り合わせと冷やしトマトを頼み、話の続きをねだる。

 

『結果としてはさ、カガリのおかげもあって、結局多く反響があったのがディンクスでの宿泊で・・・。
なぜか広報からそのまま企画提案でオーナー用ページに載せるとかいう話になっちゃって。
まぁ、カガリの性格もはっきり言う性格だから、俺も利用しちゃって・・・。』
平日にカガリを呼び出してホテルに連れて行った。

 

俺はキラから視線を外し、冷酒グラスを揺らしながら話していた。
キラは何も言わず、冷やしトマトを口に入れた。

 

『・・・キラに相談するぐらいだから。
カガリ、結構悩み出してた?』

 

俺の疑問にキラは重たそうな口を開いた。
アルコールが回って酔ってきているのか?そう思いながらキラの言葉を待っていたのだが、彼の口から出てきた声のトーンで俺は重苦しい気分に急降下していった。

 

『ん・・・実は聞いたのはラクスから。
カガリは毎回有名なホテルに連れて行ってもらう上、全てアスランが支払ってくれて不安だって。
カガリ的にはうちでもいいと思っているんじゃないかな?
僕がラクスの家に行けばいいだけだし。
まぁ、ラクスもさすがに君たちの関係については呆れていたけど・・しかし、なんでセフレにするかな。』

 

.

 

店員が持ってきた漬物の盛り合わせを僕は受取り、きゅうりの漬物をさっそくひとつ口の中に放り込んだ。
酸味が程よく聞いていて口の中がさっぱりする。
アスランは色鮮やかな人参の漬物を箸でつまんでいた。
その所作を僕は眺めながら先日のことを考えた。

 

君には話していないけど、セフレの話は君がカガリに話した翌日には知ることになったんだと思う。
さすがに、どこに宿泊したか知らないけど、帰ってきた金曜日の夜から土曜日まで・・・ずっとカガリは泣いていたんだから。
僕だけじゃ慰めきれなくて、ラクス呼んでなんとか事情を話してもらい、また泣いていたカガリ。
まぁ、そりゃ・・・
姉弟とはいえ男だから、話ずらいのは理解できるけど。

 

『適当な表現が見つからなかったんだよ。』

 

不貞腐れたように少し口を尖らしたアスラン。

 

『でもそれじゃ、アスラン、君、遊び人と誤解されちゃうじゃん。』

 

たった独り・・・カガリだけにしか執着していないくせに。
大学の時の行動から考えても、浮気なんて全くしていないでしょ。

 

『・・・まぁ、そうだけど。固執しない今の方が、俺も自由に遊べるわけだし・・・』

 

『・・・ぇ?』

 

ちょと待て。自由に遊べる?
何を言いだしているのアスラン?

 

『ん・・・今度一緒に行く?ハップバー?』

 

へ・・・ハプニングバー?
ちょっと待って。
アスラン?
ぇ・・・カガリと別れてそんな場所に出入りしていたの?
それににっこり笑っていうような場所じゃないよね、そこ!

 

『ぁ・・・ぁ・・・アス・・・』

 

そんな場所とは縁はないと思っていたアスランが・・・
いや、確かにちやほやされることが嫌いだから高級クラブとかはいかないだろうと思っていたけど・・・
まさか、そっち!?
あまりの驚きに僕は声が出てこない。
そんな僕ににっこり笑いながらアスランは話しかけてきた。

 

『ラクスなら、一緒に連れていってカップル割引でもいけるんじゃない?』

 

へ・・・
ちょっと・・・いきなり何を言いだすの?
アスラン!?

 

『なんだって君は・・・相変わらず自分の価値をわかろうとしないんだ!!』

 

僕は目の前に置いてあった水をアスランの顔に浴びせた。
もう、聞いているのすら腹立たしくなる。

 

『・・・きら・・・』

 

僕の行動に驚いたアスランの顔が一気に青くなっていくのがわかった。
だけど、もう・・・止められなかった。
なんでそんなに・・・自分を落とし込んでいくんだ。
単純な好奇心を満たしているだけなのだろうけど・・・
そんなことをしなくても君は大事にされているのに!

 

『高校のときだってそうじゃないか!親父さんと喧嘩して!』

 

アスランの目が瞬間、大きくなった。
知らなかったと思っていたの・・アスラン?

 

『・・・』

 

黙ってしまったアスランに、僕は畳みかけるように言葉を吐いた。

 

『君のお母さんから電話かかってきたとき、僕はなんとなく僕のところにいるって答えちゃったけど・・・
あの時だってどこにいたんだよ!』

 

アスランは泣きそうな顔になり、僕の視線から顔を遠ざけた。
うつむいた顔・・・彼の長い髪が横顔をそっと隠すように揺れた。
既に傷付いているのはわかっている。
でも!
僕の感情はここまで言わないと止まらなかった。
もう、僕だって・・・君をかばい切れない。

 

『未だに自分の価値を知らないまま、逃げるようなことばかりしている・・・そんな親友のところになんか、大事なカガリを渡せるか!』

 

.

 

『あら、また来たの?アスランくん?』

 

カウンターでカクテルを作る女性が明るい声をかけてきた。
薄暗い室内なのに・・・彼女の声を聞くと部屋の明るさが1段階上がる気がする。
俺は気に入っているカウンター席が空いているのを確認し、さっさと座って笑って答えた。

 

『ん・・・地雷踏んじゃって・・・親友の』

 

彼女はこの店のオーナー兼バーテンダー。
店内ではマリアと呼ばせているその女性は、俺の好きなカクテルを作り出した。
シェイカーで振ったリキュールとフレッシュフルーツをロンググラスに移し、最後にトニックウォーターを入れてステア。
俺の前に置いて笑いかける。

 

『この間の相手は恋人じゃなかったの?』

 

『この間は・・・ね』

 

そういや、カガリと喧嘩してからもここに来たっけ?
独りでいるには寂しすぎる時間を持て余していたから。

 

『厄年ね。神社でお祓いでもしてきたらどう?』

 

『ん・・・そうしたいところ。』

 

つまみとして出てきたミックスナッツの皿。
アーモンドをつまみ、俺は口の中に放り込んだ。

 

『で、何をしでかしたから落ち込んでるの?』

 

全てのオーダーが終わり、グラスなどの洗いものを終えたマリアは好奇心宜しく、俺に声をかけてきた。
つまみを食べながら、俺はにやりと笑う。

 

『・・・俺が・・・あなたのところに逃げ込んだ時あったじゃない。高校生の時に。』

 

俺はくるみをつまんで口に入れた。
香ばしい胡桃の香りが口の中に広がっていく。

 

『ふふふ・・・あったわね。なんでもするから匿ってって。
あのときのアスランくん、かわいかった。
でも、家出している割に、学校には毎日行ってて面白かったわ。』

 

まるで昨日のことのように話す彼女。
まさか、あの時のことが今更話題になるなんて俺は思ってもいなかったんだ、正直に。

 

『あの時、口裏合わせてくれていた親友に指摘されてさ。
困ると自分の価値すらリセットして何をしているんだって。』

 

俺はカウンターに左ひじをつき、その手の甲に顎をのせた。
右手でロンググラスを持ち、一口、口に含んだ。
何度飲んでもほろ苦い味がさっと広がっては消えていく。
カガリと衝突した時も・・・これ作ってくれたっけ?

 

『いいお友達がいるじゃない・・・』

 

『でも、水ぶっかけられて出て行っちゃったからな・・・しばらくは連絡とれないよ』

 

『また、そこで逃げる・・・』

 

『・・・逃げる・・・か。
冷却期間のつもりなんだけど。』

 

・・・逃げているのだろうか。
でも、どう謝ればいい?
だってどれも済んでしまったことで・・・
済んでしまった過去を消すことなんて出来るわけない。

 

『さっさと謝った方が早く仲直りできると思うけど?』

 

そういうマリアに俺は軽く笑う。

 

『正直に話すと君の存在を話さなくてはならない。
それでまたもめるのも・・・』

 

『まぁ、でも、時間が経てばたつほど、相手のことが気になるし、頭も下げにくくなることはビジネスも同じでしょ?』

 

『分かってますよ、そんなこと。』

 

俺は口をわざと軽くとがらせてみせた。
この場所を俺の聖域にしたいと言うわけではない。
ただ・・・彼女と俺の関係性が微妙ということだけ。

 

『ぁ・・ねぇ・・本当のところ教えて?
ハプニングバーには通ったの?』

 

『・・・ノーコメント』

 

そこ・・・
どっちでもいいじゃない!?
にこにこ笑うマリアは再びその艶めいた唇を動かす。

 

『探究心だけは高校生の時よりも成長するのね・・・お金の力って偉大だわ。』

 

『・・・ほっといてください』

 

『で・・・彼の具合は?』

 

声を潜めたマリアに、俺は無理に口角をあげて微笑んだ。

 

『・・・分かるでしょ。
俺が実家に戻ったっていう理由で。
・・・逢いたいの?』

 

『・・・逢いたくない・・・といえば嘘になるわ。
でも、逢ったら・・・彼女には悪いわ』

 

母の目をかいくぐるように会っていた二人。
最終的には母にもばれてしまったが・・・
業務上のパートナーではあったが、訪れる場所がことごとく疑いを生むような場所ばかり。
その時期、俺も思春期で。
父に反抗したばかりにとばっちりを全て受ける立場となってしまった。
家出するにしても行く当てが見つからず、興味半分で父が入れ込んだ女はどんな人だろうと思って彼女のところに転がり込んだ。

 

『でも、今なら話はできる。
状況によってはどうなるかわからなくなる。』

 

『・・・そうよね。
私にとっては懐かしい良い思い出のひとつだけど。
彼にとってはどうなのかしら?
それが解らないから、機会を与えてくれても悩んでしまうわね』

 

一瞬で俺の家庭に爆弾投下しておいて・・・懐かしい思い出か。
確かに一時の迷いかもしれないが、周囲に疑われる様な行動をした父も悪い。
そして、何を勘違いしたのか本人に聞かず、わざわざ探偵を雇ってまで調査した母も悪いと今では感じている。

 

『・・・ふ・・・
ごめん。笑って。
なんか、俺の恋愛話とダブってしまって・・・』

 

『十人十色の恋愛になるけれど、悩むところは結局一緒なのよ、アスラン。
だから、世の中から恋愛は無くならないし恋愛を題材とする物語もなくならないのよ。

それはそうと届けは?』

 

 

・・・俺はロンググラスを上から鷲掴みにして揺らす。

溶けている氷がカラカラ高い音をたてた。

 

 

 

『もう、出してあるよ。』

 

 

 

 

.

 

 

 

 

『まぁ・・・キラ、アスランと喧嘩されてのですか?』

 

『・・・』

 

『そんなに目が腫れるまで泣いて・・・』

 

結婚式の段取りのための打合せを含めたデート日だったのに・・・
さすがにラクスにまで目が腫れていると指摘されては、式場見学はいけそうもない。

 

『ごめんなさい、ラクス』

 

アスランのせいとはいえ、僕は素直にラクスに謝った。
仕方ないですわねぇ・・・と、明るい声でいうラクスは、ブライダル誌を取り出した。
まるで辞書だな・・・と僕は毎回目を点にしてみていた。
初めてみた時は、これは全国紙の雑誌なのだろうかと、表紙を見てみると首都圏版と書かれていて・・・
こんな分厚い雑誌の中からひとつを選ばなくてはならないのかと思い、結婚するって重いことなんだと感じてしまった。

 

『キラの衣装はどうしますか?ホワイト?それともグレー?』

 

2次会のレンタル衣装屋も探さなくてはならなくて。

 

『どうしようか・・・式場と二次会というか披露宴、別日にする?』

 

あぁ・・・気遣ってくれるラクスがありがたい。
招待客のことを今日は考えたくない。
だって・・・僕の親友と呼べるのは、昨日散々嫌な思いをさせたアスランなのだから。
そして、大事な姉であるカガリにもう金輪際合わせたくもないアスランなのだから。

 

.

 

あと何回・・・この関係を続けて行けばいいのだろう。
そう思っては、アスランに逢いたいとラインを送った。
それがセフレである私の合図。

 

“しばらく、セフレでいいんじゃないか?”

 

そう、軽口を言ったのだから・・・アスランから連絡が毎週のように連絡がくるかと思っていたのだけど。
アスランからは私へ会いたいという連絡は全くなかった。

 

私も連絡するのは会いたい前日にすることが多かった。
何回かは当日のこともあった。
だいたい半日前後で待ち合わせ場所と、ホテル連絡がある。
今回も・・・私が欲して、彼がホテル代を払い・・・それの繰り返し。
客観的に考えると、都合のいい男としているのは私の方。
ラクスとキラには既に話してしまい、アスランの人間性はどうなんだとキラは怒っていた。
ラクスは私に配慮してか、そのことには何も触れずにただ話を聞いてくれていたけれど・・・。
きっと、二人してアスランが都合良く私を利用していると今でも思っている。
アスランを利用しているのは私・・・なのに。

 

若干憂鬱な気分を心に抱きながら、それでも図々しく私はアスランを呼び出していた。
今日、先にチェックインしたのは私。
部屋のベルが鳴り、扉を開けるとアスランはそのまま抱き着いてきてキスを落とした。

 

まるで映画のような・・・

 

ちがう・・・同棲していた時と変わらない行動。
いつも私が帰宅するのが遅いから・・・たまに先に帰れてご飯作って待っていると、絶対玄関先で抱きしめてくれていた。
過去の時間を巻き戻すかのように・・・変わらずお互いを欲しているのに私たちは・・・いつまでこのままなの?

 

.

 

うとうとしているカガリの首筋に口づける。
手放したくても手放せない・・・
・・・愛おしい・・・
自分を変わらず欲してくれるカガリ。
先日のキラとの件もあったのだから、断ろうと思えばどんな理由をつけてでも断れた。
現に・・・今日も俺は予定を急遽キャンセルしてきているのだから。

 

カガリに都合のいい男になって、俺はどうしたいんだろう。
彼女に忘れてもらいたくないだけ?
それとも少しでも繋がっていたいだけ?
セフレとして会うのだから、お互いの今の生活について話すことは何もない。
ただ、獣のように愛を確かめ合うだけ。
彼女が他に男が居ようか居まいが俺は考えてはいけない。
だって・・・カガリは俺の物ではない。
俺はそこには感情を伴ってはいけないんだ・・・

 

でも・・・

 

汗ばんだ彼女の額にキスをし、そのまま抱きしめる。
意識を手放した状態のカガリの前では、押し殺していた感情を表現できる。
誰よりも手放したくない。
本当はこのまま・・・あの時に戻りたい。
・・・でも・・・もう・・・俺自身があの時と同じ環境下ではない。
自分自身に苛立っても、どうしようもならないのだが・・・

 

・・・ん・・・メロディ・・・
眠りに落ちそうな状態で耳に微かな音が聞こえる。
俺は慌ててカガリを起こさないようそっと離し、脱ぎ捨てたスーツから携帯電話を取り出す。
コール音内に電話を取り・・・ベッドから離れたところに移動する。

 

『・・・今から病院・・・わかりました。僕も向かいます。』

 

『・・・あす・・・ら』

 

・・・起こしちゃった・・・か・・・
ベッドの上に眩しそうに瞳を細めたカガリが座っている。
俺はベッドの淵に寄り添うように立ち、座ったままの彼女を抱きしめた。
覚悟していたこととはいえ・・・怖かった。
自分を作り出した世界・・・いや、自分で作った世界が崩れていく・・・

 

『カガリ、俺・・・出かけるから』

 

『ぇ・・・でも、まだ真夜中・・・』

 

抱きしめた手を離し、彼女の前に跪いて顔を傾けて唇にそっとキスをする。

 

『・・・うん』

 

唇を離し、俺はゆっくり立ち上がる。
俺は備え付けの電話の受話器を取り、フロントへタクシーの準備を依頼する。
タクシーが来るまでに若干時間はあるだろう・・・
身体の汗を流しにシャワーを浴びに扉を開けると、カガリも後から入ってきた。

 

『アスラン!私も出かける』

 

『ぇ・・・い・・・いや、カガリは・・・』

 

オーバーシャワーヘッドから流れる水滴がバスタブにあたり蒸気を発する。
即座に頭からかけたのだが、隣に飛び込んできたカガリに俺は瞬間体を揺らめく。

 

『なんで?アスラン、泣きそうじゃない・・・もう・・離れたくは・・・』

 

・・・だからって・・・連れて行ける場所とそうでない場所がある。

 

『・・・病院・・・行くんだ』

 

俺は手に取ったシャンプーを髪になじませ、洗い流していった。
頭上から降り注ぐシャワーが、体にあたり、自分の歪んだ思考を流してよりシンプルにしていく。

 

『・・・ぇ』

 

俺はシャワーから出て、タオルで髪を拭きだした。
カガリに・・・いう必要はあるのだろうか?
俺の次にシャワーを浴びだしたカガリ。
身体を髪を洗う姿を俺は目の端に捉えながら、どうするべきか考えていた。
彼女を突き放すのならばいう必要はない。
でも・・・もし・・・何かあったら・・・カガリの耳に入って・・・いや、キラかラクスから聞くことになるかもしれない。
そうなった時、彼女がどんな行動をするのか多少は検討がつく。
ならば、今、伝えておいた方がよいのかもしれない。

 

『親父・・・出血が止まらないって・・・多分、緊急手術になると思う』

 

『・・・ぇ』

 

カガリは慌ててシャワーを止めた。
髪にはまだシャボンがついている。
俺は緩く笑って・・・壁面に取り付けてあるハンドシャワーを取り、俺は彼女の体についている泡を流しながら話した。

 

『俺・・・君を巻き込みたくなくて・・・』

 

来る?それならタクシーの中で話すよ。

 

.

 

ドライヤーで乱雑に乾かしてたアスランの髪。
私の髪は丁寧にブラシをかけながら、昔みたいに乾かしてくれていたのに・・・自分のこととなると相変わらず雑だった。
濡れそぼつ髪を掻き上げてアスランは窓の外、反対車線を走る車を眺めながらぼそぼそと話し出した。

 

カガリと別れた後、部屋が広すぎるから引越を考えていた頃。
母からの電話で父が会社で倒れたことを知った。
父が自ら立ち上げた会社・・・。
父不在の間、昼間は今の会社で定時まで勤め、その後父の会社に顔を出しての生活。
帰宅後は母とヘルパーさんから父の様子を聞き・・・

 

『借りていた賃貸を解約したのは家に戻る時間すらなくなってて・・・。
俺、実家のオーナーマンション・・・に戻ったんだ。
今は両親と一緒に暮らしている。
他のフロアに空いている部屋もあったから、自分の部屋に入らないソファーとかはそこに放り込んである。
・・・こんな状況だから、両親の前を通して俺の部屋に君を連れてくるわけにはいかなくてさ。
俺、カガリを支えられる余裕、今は・・・』

 

.

 

アスランからの一方的な会話だった。
言いたいことが言い終わったのか・・・その後は黙ったまま。
最後に答えてくれないかわからないけれど、ひとつだけ質問した。
少しの間、黙っていたが聞こえるか聞こえないか・・・とても小さく呟いた。
私はついてきたことに少し後悔をした。
考えてみたら、今まで一緒に住んでいた時も全くお互いの実家のことを話すことはなかった。
私に気を使っている・・・それもあったのかもしれない。
ただ、二人だけの生活を楽しみたいから他のことは見る必要がなかったのかもしれない。
でも、今、私よりも優先するべき場所が実家なんだということをアスランは考えている。

 

両親が離婚しているうちのこともあまり話題に触れることもアスランはなかった。
触れたら、自分の家の事情も話さなくてはならなくなるから言わなかったんだろう。
アスランの立ち振る舞いも優雅な動きも、フェミニストなところも話を聞いて納得した。
他の男性とお付き合いしてもしっくりこない部分・・・それはやっぱりそういうことだったんだ・・・

 

『父は・・・スターリゾートグループの代表取締役社長だよ・・・』

 

.

 

あわせて読みたい
【fuzz connection】第六部社会人パロ。セフレ関係のアスカガ。しかし、父が深夜に入院したことで、カガリとの将来を向き合わなくてはならなくなったアスラン。...

 

20180331ねじ

 

 

 

【編集後記】

 

あわせて読みたい
終わらない仕事 【終わらない仕事】 私………な……… ...

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心がときめきたい方へのアスカガ

 

社会人パロの続き。

会社内ではフリーと思われていたアスランだったのだが、カガリが会社訪問したことでリア充なのがばれてみんなで応援してくれる雰囲気になっている。

でも、実際はセフレ関係のアスランとカガリ。

キラには水をかけられるほどの喧嘩、そしてアスランがカガリを考えられなくなった事情とは・・・

 

 

20180401ねじ

 

 

 

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