アスカガ感謝祭

【fuzz connection】第六部

 
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【fuzz connection】第六部

 

 

 

深夜の道路。
タクシーは道路渋滞のない道をすいすい通っていつの間にか病院についていた。
割り増された深夜料金を支払うアスラン。

 

あぁ・・・家まで帰るには1万円はかかりそう・・・
ターミナル駅のマンガ喫茶で時間潰してから電車に乗ろうか・・・

 

アスランの様子も落ち着いているし、自分の立場とアスランの立場に大きな壁を感じた。
私の一方的な好意だけで、ワガママだけで超えられるものではないということも自覚できた。
そんな考えを思いめぐらしながら、私はアスランに手を振った。

 

『ぁ・・・私・・・このまま家に帰るね』

 

『・・・降りてくれ、

 

タクシーを出ようとするアスランに左手首を掴まれた。

 

『いや・・・私は・・・』

 

思わず振り払ってしまう。
アスランにとって、私はお荷物感満載だった。
それに・・・ご家族のいるところに・・・私が行ったところで何ができるのだろう。

 

『俺が身勝手な事を言っているのはわかる。
カガリ・・・お願いだ・・・』

 

再び、タクシーの外に降りたアスランから伸ばされた手。
元来の白い手がさらに白く・・・震えているようにも見えた。
その手を取らなかったら、私はどうなるんだろう。
その手を取ったら元に戻れるのだろうか。

 

.

 

『母上・・・父上の容体は・・・』

 

アスランに掴まれた私の右手。
いつにもまして冷たく感じる彼の左手。
冷静な口調はいつも通り・・・
ただ、いつもよりも強い力で握る彼の左手が、普段とは異なっていた。

 

『今は、出血も落ち着いてきていて、担当のお医者さまが手術準備をしてくれているわ。』

 

自宅から付き添っていたのだろうか・・・アスランによく似た女性が蒼白な顔で病室の前に立っていた。

 

『まだ、意識はあるの?』

 

『・・・休んでいらっしゃるわ』

 

『・・・そう。
術前の同意書書類はもうサイン終わったの?』

 

『これから・・・だわ』

 

『じゃ、カンファレンスもこれからだよね。
母上は?俺が聞くから休んでおく?』

 

次から次へと質問を投げかけるアスランの様子から、以前にもお父様の手術に立ち会った経験があることを物語っていた。
息子・・・アスランが来たことで安心したのか、徐々に笑みを取り戻す夫人。

 

母と暮らした大学時代の数年間・・・キラばっかり頼って、私も頼って欲しいと思ったあの日を思い出す。
長く父と暮らしていたが、父は私を頼ったという記憶はあまりない。
男だから・・・息子だから・・・女性として頼りたくなる心境になるのだろうか。

 

『大丈夫よ、
ちょっと疲れているけれど、大丈夫』

 

『大丈夫ならばいいけれど・・・』

 

『それよりもアスラン、そのお嬢様は・・・』

 

『・・・俺がプロポーズし損ねた相手』

 

私の右手はずっとアスランの左手に掴まれたままだった。
ふわっと笑いながらいうアスランの声に無機質なその場の空気は瞬間温かくなった気がした。

 

.

 

『あ・・・』

 

病院から出て携帯の電源を入れる。
深夜からいた病院。
既に日は上り、空腹感からコンビニで食べ物を買ってこようと出た所だった。
着信アラートが何件も出てきてバイブレーション音が数秒間続く。

 

『すごいな・・・俺よりも着信多いじゃん』

 

先に電話を終えたアスランが笑って言った。
思わず顔をしかめ、私は着信履歴に目を通す。

 

『・・・キラだよ、全部。』

 

『ふぅん・・・電話するの?』

 

『これから帰るとヒトコトでも言っておけば安心するだろうし・・・』

 

私はリダイヤルボタンを押す。
この着信履歴・・・きっと、帰宅していないことが判明したから何度もかけ続けたのだろう。
会う予定だったアスランと会えた段階で、さっさと携帯の電源を落としておいてよかったのかもしれない。

 

『・・・そうだな』

 

私から視線を外したアスラン。
こういう時の所作・・・きっと何か他のコト考え出している。
数回のコール音と同時に、キラとつながったのだが・・・。

 

カガリ・・・何回かけたと思っているんだよ・・・
もう、アスランと会うなっていったでしょ!

 

電話に出たキラの声はすごく怒っていて。
あまりの声の大きさに受話部分から耳を遠ざける。

 

『ぁ・・・あ!ちょっと!』

 

多分、キラの声がしっかり聞こえていたのだろう。
耳から離した私の手の中から・・・携帯電話の上側を摘み上げられ、するっと手から離れていく。
アスランが私の携帯を奪い取る。

 

・・・何?カガリ?どうしたの?

 

私の悲鳴を聞きつけたキラは、私を問いかけていた。
そんなことはお構いなしに、アスランはトランシーバーのように携帯を持って通話部分に向って声を発した。

 

『カガリは俺といたから。
で、今日はお前のところに送らないとカガリはダメな日?』

 

な!アスラン!カガリは君には渡さないって話したでしょ!

 

あぁ・・・アスラン、火に油注いでる・・・私、帰宅できないじゃん・・・
帰宅したらキラから長々と説教受けることになる。

 

『だって、俺、カガリじゃないと満足できないんだから・・・仕方ないだろ?
で、昨晩も一緒にいたんだけど、未成年じゃないカガリを連れ歩くのにお前の許可、必要なの?』

 

電話口でわめいていたキラは絶句したのか全く声が聞こえなくなり・・・3秒。
アスランは通話オフボタンを押して私に携帯を返してきた。
何事もなかったかのようなポーカーフェイス。

 

『これでいいだろ?あぁ・・・腹減った・・・』

 

しれっという勝手なアスランに、私は目を丸くするしかなかった。

 

.

 

父の手術中、ずっと心配で起きていた母に帰宅して休むように伝え、俺はカガリと病院にいることにした。
意識が戻ったら・・・誰かいる方が安心だろうという父への配慮の為だが、思春期頃から何かしら衝突している父が、一番にみたい顔は俺の顔だろうか・・・と、疑問も多くある。

 

況しては、反抗心旺盛な息子が彼女を連れて・・・となると、一気に怒りだしそうだよなという考えも一理ある。
実際、父が倒れてから今のマーケティング部署の会社を終えてホテル業のレクチャーを受けに半年ぐらい業務内容を学びに通っている間も、父とは普通に衝突していたし。

 

俺が父の業務を引き継ぐ器ではないと怒鳴ったりもした。
役員報酬もらうだけの名ばかりの取締役で俺は十分だとも話した。
父と衝突するたびに、母上が父と俺の間に入ってなんとか仲たがいを防いでくれていた。

 

悩みは尽きない。
今、勤務先の会社の業務が楽しいから・・・という理由もひとつはある。
でも、それ以上に大きな問題は・・・

 

『どうするべきかな・・・』

 

外出用に購入しておいたプロジェクションキーボードを叩きながら、俺は無意識に声を出してしまった。
左肩に寄りかかっていたカガリが動く。

 

『・・・ぁ・・・ごめん』

 

うつらうつらしていたことに謝る彼女。
こんなことに付きあわせている俺の方がおかしいのに。

 

『俺の方こそごめん。母が戻ったら家まで送るから。』

 

俺はそっと、右手で彼女の頭を撫でた。

 

『・・・アスランは?』

 

『ん・・・まぁ、どうにかするよ。
幸い明日は日曜日だし・・・睡眠時間が乱れてもどうにかなるさ。
もう少し休んでて、カガリ』

 

『ん・・・わかっ・・・た・・・』

 

安心したのか、再び俺の肩に寄りかかるカガリ。
そのぬくもり感じる重さが、今の俺には必要なのかもしれない。
自分の心がこんなにも落ち着きを取り戻している。
でも、俺のワガママを通すと彼女の将来を潰す可能性もある。

 

・・・ラクスみたいに会社組織に属さないフリーのインテリアコーディネーターならばいいのに。
ディンクスの時は共働きで楽しんで、子供が出来たら仕事調整して・・・子供の成長に合わせて仕事を増やしていき・・・
フリーだから保育園の待機児童問題は発生するだろう、きっと。
点数だって・・・青色申告だったら障害になる。

 

あ、でもラクスのことだから、個人事業主として起業しているのかな?
細かくは聞いていないけど。
でも一時保育を利用することで平日はなんとかなるし、土日はキラが休みだからその時間は仕事が可能となるだろう。

 

そんなラクスと違って、カガリはサラリーマンだ。
ディンクスならば働けるけど、子供が出来なければ社内的に白い目で見られることもある。
20代の結婚ならばともかく、俺たちはもう30過ぎているからな。
とはいえ、子供ができたら仕事との両立がうまくできず彼女にとってはどちらかを諦めなくてはならない。

 

仕事を取るならベビーシッターを頼まなくてはならない。
子供を取るなら時間短縮業務とならないだろう。
役職で時短・・・出世コースからは外れる可能性だってある。

 

父が倒れる前だったら、それらをカバーするだけの時間と資金の用意はできていた。

 

今は?

 

資金の用意はあるけれど、俺にとって時間の用意ができるかわからない。
今だって・・・
本業でもあるマーケティング部署の他に、父の会社の業務確認をしていて、俺自身、どちらの仕事を生業とすればよいのか迷っているのに。
カガリの将来に対して、俺を選択してくれなんて・・・自分勝手すぎるよ。

 

『・・・ホント・・・どうするべきかな・・・』

 

悩んでも仕方ないことなのに、俺はいつもと変わらずに悩んでしまう。
深く溜息をつき、気持ちを切り替える。
俺は止めていた指先を、再び動かし・・・
父の会社の業務改善提案書の作成を再び始めるのだった。

 

.

 

夕方近くになり、母上と入れ替わった。
俺はカガリを家まで送ることにした。
タクシーで帰るのだから、1人で大丈夫という彼女ではあったがまとまった睡眠がとれていない為、寝不足でふらふらしていて。
無事、家の前についても起きているかわからないし、俺と一緒にいたからという理由でキラに独り怒られるのも申し訳ないので同伴することにした。

 

『あなたも休めるなら自宅で少し寝てきなさい』

 

寝ないで起きていたことがばれて、そう母上にも言われてしまったし。

 

『とりあえず、彼女を送ったらまた戻るから』

 

俺はそう母に伝え、なんとか気を張っているカガリの鞄を持ちながら病院を後にした。

 

『・・・よい・・しょ』

 

病院からタクシーで揺られて小一時間。
予想通りの結果。
タクシーの中で緊張の糸がすっかり途切れたカガリは爆睡。
タクシー乗る時に預かっておいたカガリの実家の鍵で俺は、玄関の扉を開けた。

 

夕方だからか・・・キラは嬉しいことに不在だった。
今晩はラクスのところか?
言い争いをしたら、熟睡しているカガリを起こすことになるし・・・いない事は好都合だ。

 

・・・意識なくすとこんなに人間って重くなるもんかね・・・

 

それとも、俺の寝不足が今になって堪えてきたのかな・・・
同棲している時に何度かお姫様抱っこしてベッドまで運んだことはあっても、さすがに階段を上ったりということはない。
ヒールを脱がしたことだって。

 

階段を上がって奥の部屋になるカガリの部屋。
部屋の鍵はめんどくさがり屋の彼女だから開いたままで。
俺はカガリのコートと上着を脱がしてベッドに寝かせ、布団をかけた。

 

『・・・はぁ』

 

彼女のベッドに俺は寄りかかり、肩から大きく息を吐いた。
無事、カガリを送り届けられた・・・。

 

.

 

『ぇ・・・』

 

何この靴。
普段からシューズクローゼットに履物はしまう習性があるにも関わらず、カガリのヒールは揃えて置かれたまま。
その隣に脱ぎ捨てられたようにひっくりかえった男性物の革靴。

 

明日はラクスが仕事だと言うから、ちょっと遅めの帰宅をしたけれど・・・いつから人の家に上がり込んでいたの?
脳裏にかすめるのは大学時代のアスランとカガリの交わり。
僕は頭を左右に振って嫌な思い出を消しながら、焦って階段を上がってカガリの扉のノブを回した。
想像していた状況とは異なるほどの情景ではあったけど、僕は苛立つ感情のまま怒鳴った。

 

『アスラン!』

 

.

 

名を呼ばれて気が付いた。
気が付いた・・というより、一気に目が覚めた。

 

俺・・・いつのまに寝てたんだ?

 

カガリをベッドに置いて、布団かけて・・・一気に気が緩んだんだ。
目の前には顔を真っ赤にしたキラが・・・まさしく仁王立ちだな、これ。
俺は足を投げ出して寝ていたらしい。
いつでも立ち上がれるように右足を体に引き寄せて立膝にした。

 

『ぁ・・・、これには訳があって・・・』

 

カガリもキラの声で一気に目が覚めてしまったらしい。
慌てて布団の中から声をかけている。

 

『カガリは黙ってて!』

 

キラが再び声を荒げた。

 

『大事な姉をセフレ呼ばわりして、その上僕がいない間に無断侵入?
僕はカガリともう会わないでっていったよね?アスラン』

 

一気に巻くしててるキラに、俺はどう対応していけばわからない。
そのまま黙っておいてもこうなったキラは怒りだすのだ。

 

『・・・俺には彼女が必要だったんだ。
お前には関係ないだろ。』

 

『い・・いや、アスラン。ちょっと待て。
昨日は私が連絡して・・・』

 

『黙ってて、カガリ!
君が誘ったとしても、断らないアスランが悪いんじゃないか!』

 

『いいだろ、俺がカガリを抱きたいんだから。
何でカガリの誘いを断る必要があるんだよ・・・』

 

あぁ・・・タクシー内で想像していたキラとの修羅場。
言葉を選んでなんて応答していたら、付き合いが長い分疑われる。
本心を言い続けるしかないけれど、これもこれで怒りを買う。
俺はキラからカガリを隠すように立ち上がった途端・・・
想定通り、左頬に痛みが走った。

 

『・・・これでいいか、キラ』

 

『・・・いいわけないだろ、アスラン。
僕はカガリに会うなと言ったはずだ。』

 

『キラ・・・アスランは・・・』

 

『俺は、カガリとはこれまで通りの関係は続ける。』

 

今度は右頬に痛みが走る。

 

『キラ!!!アスランは!!!』

 

『カガリは黙っててって言ったでしょ!
会わないと言うまで殴ってやる!』

 

『気が済むまで殴りたければ殴れよ、ただしカガリは不問にすることが条件だ』

 

『!!!アスランっ』

 

再び顔を真っ赤にしたキラは涙を浮かべながら俺を平手で殴りつけた。

 

.

 

『・・・いて』

 

『お前、口の端・・・』

 

『口の中もだよ、切れてる・・・』

 

結局全部で5発か・・
なんか・・平手じゃないのもあった気がする。
好きなだけキラのサンドバックになるつもりだったけど。
寝不足の頭は初回の一発ですっかりクリアになった。

 

『お前、この顔で病院行くのか?』

 

『・・・あぁ・・・母上には何か言われるだろうな・・・』

 

『いや、看護師からも言われるだろ・・・これ』

 

プロポーズし損ねた相手として、カガリはキラの姉だとはさっき母には話したけれど。
中学の時からの親友であるキラに殴られるということは、母としては想定外だろう。
自分が招いたこととはいえ、どうすることもできない。

 

気が済むまで殴れとはいったけど・・・あのあとキラは俺に2発は平手をお見舞いした。
そして黙ったまま・・・涙がこぼれそうな瞳のまま、自分の部屋に閉じこもってしまった。
一気に腫れあがった俺の頬をみてカガリが焦り、俺はカガリに引っ張られるように1階のダイニングに連れてこられた。
ダイニングのベンチシートに座らされ、カガリが作ってくれた氷嚢を腫れた左頬に押さえつけながら、俺は携帯でタクシーアプリを起動して眺めていた。

 

『アスラン・・・キラには・・・』

 

カガリはベンチに座る俺の正面に立っていて、俺の右頬に氷嚢を当ててくれている。

 

『今は何を話しても言い訳になるし・・・いいよ、このままで。
まだ、部屋に閉じこもっているんだろ?』

 

『いや・・・そうだけど・・・でも・・・』

 

頭上から落ちてくる動揺している声に、俺は顔をあげた。

 

『俺、キラとは違って、まともにお前にプロポーズしてないしな・・・』

 

『ぇ・・・い・・・今はそんなこと』

 

・・・どっちでもいいじゃないか・・・

 

そう、口の中で呟きながら、カガリは顔を真っ赤にした。
既成事実とはいえ、プロポーズするつもりだった指輪はカガリの手には渡っていて。
俺がセフレとして付き合おうと言った時にいらない呼ばわりした指輪。
俺の鞄には戻されていなかったから、カガリが持っているはずだ・・多分。

 

心配そうに両頬を腫らした俺を見つめるカガリ。
何・・悩んでいるんだろうな、俺。
結局のところ、俺がヒトコト言えばいいだけであり、俺が決断すればいいだけなのかもしれない。

 

『ごめん。カガリ』

 

俺は右手で持っていた携帯をベンチに置き、カガリの腰を抱き寄せた。

 

『ぇ・・・ぁ・・・アスラン?』

 

俺は左手で頬を抑えていた氷嚢をダイニングテーブルに置き、カガリをギュッと更に抱き締めた。

 

『ごめん・・・本当に・・・』

 

『い・・・いや、こちらこそ、ごめん。弟が・・・』

 

俺の意図しているごめんとは異なるレイヤーで謝るカガリがかわいくて。
俺は立ち上がって彼女のおでこに口づけた。

 

『ぁ・・・アスラン・・・冷やさないと・・・』

 

緊張しているときのカガリのいつもの行動。
俺はもう一度抱きしめ、カガリの耳元で囁いた。

 

『キラの部屋に行ってくるよ』

 

.

 

『キラ・・・話がしたい』

 

数回ノックすると、ようやく鍵を開ける音がした。
氷嚢をあてた俺の顔を見て、瞬間瞳が大きくなる。
ばつが悪くなったのか眉を寄せて小さくどうぞとキラはつぶやいた。

 

『ぁ・・・私も・・・』

 

俺の背後から顔を出したカガリをキラは不服そうな顔をしながら再度、消え入りそうな声でどうぞと言った

キラはデスクチェアに座った。
俺とカガリは室内扉の前に立っていた。

 

『カガリと結婚するから』

 

『ぇ・・・ぁ・・・アスラン?』

 

俺の言葉で驚く隣のカガリとは正反対に、キラは俺を黙ったままにらみ続けていた。

 

『・・・だから何?』

 

暫く経ってから口を開いたキラ。

 

『今までのコト、なかったことにしろとでもいうの?アスラン?』

 

『別に。そんなことは全く考えていない。
俺がすべて悪かったんだし・・・』

 

言い終わるか終わらないかで俺は腕を強く引っ張られた。

 

『いや、違うだろ、アスラン!もとはと言えば私があの日!!あの日電話切れば!!』

 

腕を引っ張るカガリが必死になって俺にあの日の弁明をしてくる。
優しいカガリ。
やっぱり、はっきり言い切れるその強い瞳が俺はとても好きなんだと自覚させる。
今となっては本当にあの時・・・なんで余裕がなくなっていたんだろうと後悔させる。

 

何が目的だったんだろう。
プロポーズのシチュエーション?
俺は何に酔っていたんだか・・・あの日の目的はたったひとつだったのに。
今でも、過去の自分に飽きれるぐらい後悔してる。
俺はカガリを見つめて話した。

 

『・・・車の中で・・・仕事辞めて俺と結婚してくれと言えなかった俺がやっぱり悪いんだ。』

 

『・・・ぇ』

 

一気に顔を赤くするカガリに微笑み、おでこにキス、俺はキラを見つめる。

 

『・・・カガリはアスランでいいの?』

 

カガリの頬のほてりがなくなった頃、キラがようやく口を開いた。

 

『アスランがいい。』

 

俺の右腕を抱きしめるようにしたまま、カガリはキラに宣言した。
キラは一瞬困った顔をし・・・ふぅと息を吐いて髪を掻いた。
立ち上がり、ベッドの枕元に向うと充電器から携帯電話を取り外し電話をかけ始めた。

 

『・・・ごめん、起きてる?
・・・あ・・・うん・・・それがさ・・・』

 

キラが23時過ぎに電話しても問題がない相手なんてだいたい予想はつくのだが、なんでわざわざ電話する必要があるのだろう?

 

『はい、アスラン。
さっき言ったことと同じこと、もう一度言って』

 

俺の方に向けられた携帯画面。
表示画面はやっぱりラクスと書いてある。
なんでキラの将来の嫁に言わなきゃならないのかよく分からないんだけど。
大学時代、一緒にいたよしみか?

 

『ラクスか?俺、カガリと結婚するから』

 

言ったと同時にスピーカーになっている携帯から大興奮の声が入ってきた。

 

『きゃぁぁぁ!カガリさんおめでとうございます!
私の夢の合同結婚式ができそうですわ!』

 

 

 

・・・は?
・・・何が夢だって!?

 

.

 

『ちょっと待て、
結婚はすると言ったが、結婚式をするとまでは俺は言っていないぞ!』

 

『やだ、アスランったら!カガリさんにウェディングドレス着せないつもりですか?』

 

『い・・・いや、そんなことはないが、俺にもカガリにも色々準備が・・・』

 

『では、私たちの結婚式を遅らせればいいことですわ、キラ』

 

『・・・ちょっと待て、ラクス!
おい、キラ!お前の彼女だろ!?
どうにかしろよ!!』

 

『・・・だからカガリと別れてくれていた方がうまく行っていたのに・・・』

 

『まぁ、キラ!そんなこと言わないでください!』

 

『おい、カガリも何かラクスに・・・』

 

『ぇ・・・ぁ・・・あまりにも想定外過ぎて・・・だってお泊りした時にラクスそんなこと言わなかったじゃないか。
そんな夢があるとは・・・』

 

ぁ・・・カガリ、色んな意味でのぼせてるんじゃないか?
多分・・・今になって、テーマパークに行った日、俺がプロポーズしようとしていたことに気が付いたんだろ。

 

『とにかく!ラクス、俺たちの結婚式はまだ決めていないから。
勝手に理想を語らないでくれ。
俺はこれから病院に戻る。』

 

思わずイラッとして出てしまった病院という言葉に、察しがいいラクスが喰いつかない理由はなかった。

 

『あら?病院ですか・・・この時間から?』

 

ラクスのあらあら声が静まり返った部屋の中に流れ、キラは一気に青白くなった顔で俺を見ていた。

 

『アスランは病院に行きなよ。カガリ・・・何が起こっているのか教えてくれるよね』

 

『ぇ・・・ぅ・・・うん』

 

カガリは俺の顔を見上げ、どこまで話していいのか目で訴えてきている。

 

『全部話していいよ。・・・昔から迷惑かけているし。
俺と父の気が合わない事だって薄々気が付いているんだろ?キラ?』

 

.

 

日付が回った頃、ようやく病院に着き、母上を仮眠させられる状態にできた。
まだ寝たままの父の様子を確認すると、俺はまた考え出してしまった。

 

結婚式・・・ね・・・

 

携帯モニターとプロジェクションキーボードを病室内のテーブルに並べたまま、俺は頭の後ろで手を組んでソファーによりかかった。キラに叩かれた両頬の腫れはまだ残り、下を向くと引っ張られるような感覚になる。
ナースステーションを通る時に看護師に驚かれ、その場でジェルシートと医療用テープ、氷嚢が準備された。
事務作業をしたいことを告げると、さっさとジェルシートが両頬に看護師に貼りつけられた。
冷たい頬の感触・・・暗い病室の天井にゆらめく反射光を目で追いかけながら、物思いにふけっていた。

 

結婚式・・・しようとは思うけど、俺は仕事をどうすればいいのだろうか。
カガリはそのまま今の会社で働くだろう。
父上がこんな状態じゃ・・・株主がそろそろ行動を起こすだろうし。

 

・・・結婚式、しなければしないで問題になるのかな。
でもさ、どのタイミングですりゃいいんだよ・・・

 

 

 

・・・クソっ

 

二人だけのことなのに・・・

 

俺は眠気覚ましに購入した缶コーヒーを飲みほし、カガリといた時に完成できなかった業務改善提案書の作成に手を付けた。

 

・・・コーヒーのくせに・・・口の中がイタイなんて・・・クソっ・・・

 

.

 

『・・・ふぅん・・・アスランがねぇ・・・』

 

僕はマグカップになみなみ注いだホットカフェオレをソファーに座るカガリに渡した。
いつもならそのままソファーの隣に座るところだが、なんとなく距離を保ちたくて僕はダイニングチェアに腰を下ろした。
正直なところ、親が離婚している僕にはなんで衝突する父親の仕事を引き継ごうとしているアスランの気持ちがあまり理解できなかった。

 

カガリから事情を聞いてもピンとこない。
別にアスランはアスランなんだし、今の職場が楽しいならそのままでいいのではなかろうか?
何も父親の仕事を手伝う必要は今でもないと思う。

 

『カガリはさ・・・社長夫人になりたいの?』

 

僕はずっと気になっていたことを尋ねてみた。
一気に顔を赤くしたカガリは明らかに動揺している。
両手で持ったマグカップを傾け、慌ててひとくち飲む。

 

『ぃ・・いや、そんなことは・・・仕事も続けたいし・・・』

 

『だよね、カガリはカガリだもんね。
でもさ、子供出来たあととか考えていたりするの?
カガリの会社、育児休暇何年間あるの?
それに住む場所によっては待機児童問題が絶対発生するし。』

 

僕は結婚した後、ほとんどの人が進む道のりを口に出した。
真っ赤な顔になった後、僕の言葉でだんだん顔色が青くなっていくカガリは、だんだんと自分の立場が分かってきたようだった。

 

『そんなにひどいのか!?待機児童問題って!』

 

『・・・調べたことないの?カガリ?』

 

こんな情報はいくらでもネット検索で調べられる。
さらにご丁寧に自治体別子育て支援比較サイトまで最近は作られている。

 

『ぃ・・・いや、ニュースで聞いたことはあるけれど・・・』

 

声が小さくなっていくことで、カガリは全く興味がなかったんだということがわかってくる。
まぁ、サラリーマンとして働いていて、いつかは結婚して・・・と、婚期すらあまり考えずに働いていたカガリにとって、リアルな世界とは接点がほぼなかったのかもしれない。
それだけ・・・アスランがしっかりしていたともいえるのだが。
リビングテーブルにマグカップを置いたカガリに、異なる視点から質問してみる。

 

『・・・アスランと同棲しているとき、カガリ何してたの?
ほとんどアスランに夕飯作らせていたんじゃないの?』

 

『・・・だってあいつの方が早く帰れていたし・・・』

 

口を尖らしながら、ソファーの上で体を縮めたカガリ。

 

『・・・アスランの気苦労が分かった気がする。
カガリがそんなんだから、アスランがなかなかプロポーズしなかったんじゃない?』

 

僕は意地が悪いかもしれない。
そう伝えるとカフェオレを一口飲んだ。
ノンシュガーの手作りカフェオレは、口の中にほろ苦さを残す。

 

『・・・ぇ』

 

こちらを振り向いたカガリに僕はさらに質問する。

 

『カガリさ・・・子どもをどうやって育てたいとかアスランと話したことある?』

 

まぁ、アスランから子どもがかわいいなんて発言、僕も聞いたことはないけど。
ただ・・・ジョギングしていた時に、公園の遊具で遊んでいる親子連れを見た時、目を細めて眩しそうにみていたのは知っている。
その時は・・・カガリと別れた後だったから、自分には永遠の憧れの対象、もしくは見果てぬ夢とでも思い込んでいたのかもしれない。

 

『・・・子どもの話なんて・・・だってアスラン・・・』

 

『子どもが出来ちゃうようなことは全くしなかった・・・ってわけじゃないよね?
アスランの方でも出来ないようにしていたんでしょ?』

 

再び、カガリは僕の言葉で固まってしまった。
テーブルの上のカフェオレが入ったマグカップを見つめている。

 

『僕はラクスが正社員の仕事辞めて独立したから、いつプロポーズしようか考えていた立場だけど。
アスランはさ・・・君のワークホリックを支えられるだけの資金を作ることが目的でプロポーズ遅らせていたんじゃないかな?
思い当たること、あるでしょ?』

 

『・・・っ』

 

カガリはソファーの上で体育座りをしていた。
膝の間に顔をうずめ・・・もしかしたら泣いているのかもしれない。
僕は責めるつもりはなかった。

 

でも、カガリには自覚してほしかった。
アスランはぬるま湯にカガリをずっと浸けておいた。
それはアスランにとって、カガリへの愛情表現のひとつだと思う。
多分、社長職に運よく就いたとしても、アスランはカガリに対して強いことは言わないだろう。
今よりも財力があるし、カガリをもっと甘やかせることになりそうだ。

 

『カガリはさ、システム会社の営業だから、仕事の上でもあまり共働きや子育ての問題について触れることはなかったんだろうけど。僕もシステム系の会社だからその事情はよくわかる。
でもさ、アスランはマーケティング部署所属、会社自体は不動産会社だよね。
社内の女性社員の様子とか結構見ていたんじゃないかな。
まぁ、不動産のマーケティング部だから、購入者を増やすための間取りリサーチとか、生活のしやすさとかも業務の一環として情報が入ってくるし。』

 

丸くなってしまったカガリは身動きをしなかった。
カガリが働いたところで問題になる子育て。
カガリが働かないところで問題になるのは社長夫人という重責。
どちらに転んでも発生するのが・・・同族会社で発生する後継者問題。
今のご時世、男の子じゃなきゃダメということはないだろうけど。

 

『どうするのカガリ?
そんな重たい結婚、やめた方がいいんじゃないの?』

 

.

 

 

 

20180508【fuzz connection】第六部

次回投稿は6月8日予定

【fuzz connection】第七部アスカガ社会人パロ。親友であるキラに殴られ、自分が素直になればよかったんだと気が付くアスラン。キラの前でカガリと結婚すると宣言。カガリは突然のことだったが、キラはアスランはしっかり準備していたよと話す。動揺するカガリは・・・...

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【編集後記】

 

心が疲れている方へのアスカガ

絶賛!!告白中!!
学生パロディ。カガリがドーナッツ屋さんで勉強していると声をかけてくる人物が。

 

Black or Whiteシリーズ|かがりinくるーぜ隊シリーズ
各シリーズをまとめたリンク集です。気になるお話は見つかるでしょうか。
刻の中のLANDSCAPE
血のバレンタインが起こった2月14日。プラントを公式訪問するカガリ。

 

https://ath.tokyo/blog/brand-new/

https://ath.tokyo/blog/the-fun-of-the-society-person-yzak-is-after-dinner/

 

 

【fuzz connection】第一部の設定を引き継いだ形になりましたが、2018年最初の書き下ろしとなります。
少なくとも7年はブランクがあったのでご容赦くださいとしか言いようがないです、はい。

 

https://ath.tokyo/blog/fuzz-connection-01/

 

【fuzz connection】第二部はパス付のアスカガ+キラです。

https://ath.tokyo/blog/fuzz-connection-02/

アスラン、カガリ、キラ、ラクスの設定に関してはこちらの方にも書いてありますね。

 

 

なんとかハッピーエンドに向かいだしたアスランとカガリですが・・・
色んな意味で前途多難ですね。

 

仕事中心に生きてきたカガリは、自分の年齢に気が付いていません。
30代に入っている・・・その時点である程度出産・育児について考える時期ですが・・・
今まで考えたことすらない。

 

そんなカガリを大事に慈しんできたアスランなので、その辺りについてはフォローできるように行動していたのでしょうね。
とはいえ、今のアスランには、カガリを十分サポートできるのでしょうか?
そして・・・ラクスの合同結婚式の夢は叶うのでしょうか?

 

更新が結構遅くなるので・・・完結まで生温かい目で見ていてください。

 

BGM⇒persona3

 

大学生編

全2話

https://ath.tokyo/blog/fuzz-connection-01/

https://ath.tokyo/blog/fuzz-connection-02/

 

社会人編

全8話予定

【fuzz connection】第四部 このお話しが楽しめたら、【♥】をクリックしていただけると、次回のお話しへのやる気に繋がります。 【♥】やサポ...
【fuzz connection】第五部 このお話しが楽しめたら、【♥】をクリックしていただけると、次回のお話しへのやる気に繋がります。 【♥...
【fuzz connection】第六部社会人パロ。セフレ関係のアスカガ。しかし、父が深夜に入院したことで、カガリとの将来を向き合わなくてはならなくなったアスラン。...

6月8日以降の更新内容になります。

【fuzz connection】第七部アスカガ社会人パロ。親友であるキラに殴られ、自分が素直になればよかったんだと気が付くアスラン。キラの前でカガリと結婚すると宣言。カガリは突然のことだったが、キラはアスランはしっかり準備していたよと話す。動揺するカガリは・・・...
【fuzz connection】第八部 【fuzz connection】第八部 このお話しが楽しめたら、【♥】をクリックしていただけると、次回のお話しへのやる気に繋...
【fuzz connection】第九部 【fuzz connection】第九部 予告 『熱っぽい?』 『うん・・・熱、測ったんだけど36.8度ぐらいで・・・い...

https://ath.tokyo/blog/fuzz-connection-10/

 

心が疲れている方へのアスカガ
 

絶賛!!告白中!!
学生パロディ。カガリがドーナッツ屋さんで勉強していると声をかけてくる人物が。

 

Black or Whiteシリーズ|かがりinくるーぜ隊シリーズ
各シリーズをまとめたリンク集です。気になるお話は見つかるでしょうか。
 

刻の中のLANDSCAPE
血のバレンタインが起こった2月14日。プラントを公式訪問するカガリ。
 

 

心が泣きたい方へのアスカガ
 

【fuzz connection】第四部
社会人パロ。学生時代から交際していた30代のアスランとカガリ。カガリの行いをきっかけにアスランとカガリは別れてしまう。
 

………Lost Paradise
本編沿い。SEED25話前後の内容。アスランの回顧録。
 

ガンダムSEED、SEEDDESTINY本編沿いのお話。
各シリーズをまとめたリンク集です。気になるお話は見つかるでしょうか。
 

 

心がときめきたい方へのアスカガ
 

蠍座と乙女座の因数分解
蠍座と乙女座の平衡定数のパロディ話。一発ギャグが大量に書かれています。
 

early summer rain
学生パロディ。本が好きなカガリとアスランの話。
 

Black or White-晴れ間の向こうに-
本編沿いの話。保たれた平和の中で、コペルニクスの幼年学校の同級生と出会ったキラとアスラン。
結婚式の招待状を送ると言われてしまう。
 

終わらない仕事 【終わらない仕事】 私………な……… ...

https://ath.tokyo/blog/i-will-be-by-my-side/

https://ath.tokyo/blog/brand-new/

 


 

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