【SPRING・BIRD】
『あ………』
『……ん………なぁに………?』
『……やりすぎちゃった……ごめん』
小声で言っておでこに口付けする。
『……ん………』
半分寝呆けた声と共にカガリは寝返りをうった。
明日、素直に怒られるかなぁ………心の中で少し構えながら、十分愛し切った満足感に満たされ眠りに落ちた。
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翌朝
洗面所で悲鳴が………
『あ……あ……アスラン!!!』
………怒ってるなぁ………
体を起こし、バスローブの袖を通しながら悲鳴発生源に向かう。
『寝てる間に何した?!』
『キス。しちゃダメなのかよ』
『ダメじゃないけど………跡ついてるじゃないか!!!』
『うん。……ごめん』
『ごめんって……化粧で隠れるかなぁ………』
『………』
いつもナチュラルメイクなのに濃くしたらかえっておかしく思われるだろう。
あえて何も言わず、俺はシャワーを浴びはじめた。
『あぁ………だいたいなんでほっぺたにキスなんてするんだよ……いつも見えないところなのに』
ファンデーションをはたきながらカガリは怒鳴った。
『可愛いからだよ』
髪を洗い流しながら答える。
『答えになってない!!!』
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隠れたかなぁ………と呟きながら、鏡を覗き込んでいる。
俺は、髪を拭きながら頬の赤いあざを探す。薄くはなったけど………
『カガリ』
『ん?』
『そのまま鏡見てて』
ジェルを手のひらにとり、伸ばす。
彼女の髪の先端につけて、頬を隠すように内側にセットする。
髪をいじられて気持ちよくなってきたのか、彼女は目を細めた。
頬にキスの跡とは違う色の赤みがさされてく。
『ありがとう、アスラン!!!』
髪で隠れたのを確認した彼女はうれしそうに言った。
『まだだ』
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彼女を引き止めて頬に薄くパウダーをおき、唇にグロスをさす。
『終わったよ』
『あ………ありがとう』
真っ赤になった彼女に、使った化粧品をポーチに詰めて渡す。
少しはキスマークの責任はとれたようだ………
金のチェーンを首に回し、うなじにキスしようとしたら、鏡の中に睨む彼女の顔があった。
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『あら!!!』
会議が終わり、定例の記者会見を終わらせた直後、見慣れた女性記者がカメラを構えながら話し掛けてきた。
『カガリ様、今日は何か特別なご予定あるのですか?』
『???い……嫌、何も無いぞ!!!』
『いつもよりおきれいですよ?
スタイリストさん変えたんですか?』
目を丸くした国家元首は、しばらく時間を置いて顔を赤くした。
『………いつもと同じだ………』
口の中でつぶやくしかなかった。
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『………エリカ』
『なんですかカガリ様』
『何か言いたそうにしているのはそっちだろう!』
いつもは書類から目を離さないエリカなのに………。
『あら……じゃあ、聞いちゃってもいいんですか?』
『なんでも聞いてくれて構わないぞ』
『アスランは化粧もしてくれるのね(笑)』
『!!!!!』
MSの改良実験結果を聞きに寄ったエリカ・シモンズの作業室で、思わぬ爆弾を浴びせられた。
金魚のように口をパクパクしているカガリの前で結果レポートを広げながら、淡々と話し続ける。
『本当に手先が器用な子よね……あんな事故があったのも忘れてしまうぐらい………
感情表現は誰かさんと違って少し不器用なところがあるけど……
……軍人気質だからかしらね………
カガリ様、始めますよ』
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『………エリカ………』
近寄りつつ訊ねる。
『なんでアスランが化粧したってわかるんだ?』
『あらだって………』
両手でカガリの顔を挟む。
『国家元首を可愛らしくメイクするスタイリストなんていないわよ、愛情を一番注いでいるヒト以外は。』
顔が見る見る赤くなるお姫様の顔から手を離した…とその時にエリカは金糸の髪の隙間から、頬の薄茶の陰りを見つけてしまった。
(困った騎士ね(笑)
お姫様をこんなに可愛らしくしちゃうんだから)
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今週は昼勤務と言っていただけあり、アスランはアスハ邸にいた。
夕食を共に食べ、共にお風呂に入る。
寝る前のベッドでの語らい………今日の業務中に起こったこと、明日の予定とか……どちらかと言うと、カガリが一方的に語ることが多い。
それでも、その時間はふたりにとって気持ちが安まる時間のひとつだった。
『カガリ……』
彼女のぬくもりを感じたくなり、触れようと手を伸ばす。
今まで、何があっても、外れることがなかったチェーンに通された指輪が、胸の上で転がる。
行為を邪魔するが如く、パソコンからアラートが鳴る。
『プラントからかな?』
カガリはアスランに微笑み返し、パソコンに向かった。
『久しぶり、カガリ』
『キラ!!!元気だった!?』
『あ………ごめん、もう寝る時間だった?』
『え………まぁ………そんなところだ』
『次はもっと早い時間に連絡する………ね』
ご機嫌だったキラのトーンが下がる。
『…………カガリ、頬っぺた……』
『あ……』
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カガリはみるみる赤くなる。
化粧を落とした上、髪を洗い流したので、薄茶の痣は露出されていたのだ。
『ちょっとアスラン呼んで!!!』
………何も同じ部屋にいてやりとりを全て聞いている身としてはモニターに映りたくない。
ましてやバスローブ姿………怒りを余計煽ってしまう……
ジェスチャーでいないと言ってと伝えているのだが……
『いるんでしょ!?アスラン!!!』
キラの大きな声が聞こえる。
ため息つきながらモニター脇のSoundOnlyボタンを押す。
『?』
『………オヒサシブリ』
『なんで映像消す訳?』
『そんなこといいだろ……で、用は?』
『カガリと一緒にいるのは一万光年譲っていいけど、あからさまにいちゃいちゃしないでよ』
不快だ……とつぶやく。
『世間にはわからないようにメイクで隠しているから、そんなに……』
『怒らない方がおかしいでしょ!?』
散々キラはアスランに文句をいい、通信を終わらせた。
プラント行って、カルシウム不足してるんじゃないかなぁ……と、頭の片隅で考えてたら気が付く。
『カガリ………キラの用事はなんだったんだ?』
→fin.
【SPRING・BIRD$編集中記$】

………また中折れみたいな終わり方ですみません(汗)
今回はあることから出来たお話しです。
皆様に喜んでいただけたようでよかったです。
タイトルの【SPRING・BIRD】はドライジンとサクラリキュールのお酒です。
飲んだことは………ありませんが、桜餅の味らしいですね。
今回は、お話しの内容に合わせてタイトル選択してみました。
キスマーク………はなびら………のように見えますしね。
桜の時期に発表出来てよかったです。
続編のタイトルもお酒です。
時期も含めて………想像してみてくださいね。
ではでは次のお話で………
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201004ねじ
先に3月8日がミモザの日ということで、先に投稿していました。
このお話の続きはこちらになります。
https://ath.tokyo/blog/mimosa/
20180314ねじ