2009年書き下ろし

Velocity Night-07-vol.7………For your Entertiment

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蠍座と乙女座の平衡定数の続編になります。
ラスト未完成です。

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このお話しが楽しめたら、【】をクリックしていただけると、次回のお話しへのやる気に繋がります。

Velocity Night-07-

vol.7………For your Entertiment

『………イザーク………』

黙っていることがこんなに………辛いことだとはね………
ディアッカはそう思いながら口を開いた。

『急用思い出してさ………先に乗り込んでてくれ』
『はぁ!?お前、何言ってるんだ!?』

スピーカーから飛び込んでくる裏返った声。

『急用だって!!!細かく説明してたらアスラン、助けられないだろ!?』
『アスラン助けてから、その………急用とやらを片付けろ!!!』
『それは無理だ。アスラン絡み………だから』
『………』

………頼む、いや………

俺はイザークの返事を待たずにモビルスーツの向きを変えた。

『………ディアッカ』

スピーカーから入る声はいつもよりも低い。

『早く戻れ!!!わかったな!!???』

.

『オヤジ!!!』
『ディアッカ!?どうした………そんなに汗だくで………』

研究員と話していた親父は俺の姿を見て、驚いた。

『いいから、この遺伝子配列を調べて、この血液に適合するか検査してくれ!!!』
『!!?この毛髪の主と、血液の主は違うのか?
………だいたい、この血液パック………O型なら………』

多少眉をしかめだした表情をする。
そう………理論的にはO型なら汎用性は広い。
しかし………適合しない血液型があるのは確かだ。

『別室で待て………ディアッカ………』

エルスマン議員はそう、愛息に指示し、研究員にO型の血液パックと毛髪を慎重に手渡すのだった。

.

『………ディアッカ』

壁掛け時計の傾いた針は僅かだった。
しかし………ディアッカには長く感じた。

それだけ………思うことは多かった。

女装して………来た、アスランの目的。

元婚約者………ラクス・クラインの言葉。

同じ………瞳………の………

ノックされた扉はディアッカが返事をする前に開く。
即座に扉を閉め、大股で部屋に入り正面に着席する父親。
いつになく………眼光が鋭い表情から………
自分が組み立てたなぞなぞに解答が出たのだろう。

『………どこで手に入れた………ディアッカ』
『極秘事項だ………これは先に議長に報告しなければいけない問題だ。すまないな、親父』

俺はさらっと回答を述べた。
ここで………論議はしたくない。
親父に説明してる余裕はないんだ。
終わってから………話せる。

でも

終わる前に助けなければならない奴がいるんだ!!!
そいつを助けないと………もう………話せなくなる!!!

『………わかった………』

エルスマン議員は一枚の紙を机に広げた。

『ディアッカ、ヒトコトだけ伝える………』

.

………そう………だよな………

あいつ………独りっこ………

どんな決意でオーブ軍を辞めたんだ?

………どんな

………………どんな気持ちで………………

どんなにあいつの顔を浮かべても………

………どうして………だろ………

怒った顔も、泣いてる顔も………見てきたはずなのに………
恥じらいながら笑みを浮かべるあいつ………しか………

………(無理するな………ディアッカ)………

バカッ!!!
無理してんのはお前だ!!!

なんで………なんで………

色んなもん抱え込んでお前は生きてるんだよ!!!
アスラン!!!

.

『なぁ………』

復座に改造されたコックピット。
後部座席は操縦機能は全くなかった。
そんな座席はカガリには正直物足りなかった。
いつもなら………それでも楽しめたかも知れない。
でも今回………思考することは、底抜けの不安な渦ばかり………
自分で動かせない苛立ちから、両手を置くひじ掛けに力ばかり入っていた。
始めは………気が付かなかった。
前座席………操縦席からの問い掛けに。
俯いていた顔を上げ、カガリは返事をする。

『どこ………が………って』

………わからない

そんな………言葉でなんて………表せないよ………

答えに臆していると、また聞こえていないと思われたのか、前座席のシンが少し声を大きくした。

『アスランのどこがいいんですか?ねぇ?!』

.

『俺は戦場であんな叫び声、聞いたことない』
『………』

とっさに出た悲鳴に弁解の余地はなかった。
張り詰めていた緊張感………
殺される心配はなくなった。
人種としても、立場としても相反してたのに………
上からの言葉使いが同等になり………

彼の感情がこんなにも優しいものだと知ったのはいつだろう。

怪我の絶えない身体………

唯一の父親と袂を分けた心情………

慰める………つもりだったのに………

浮かべてしまった涙に気付いたアスランは、言葉少なにきつく抱き締めてくれた。

………なのに………

抱き締めてあげなきゃいけないときに、私はいつも………

いつも、アスランから離れていて、彼の声も、ぬくもりも、涙も………

………感じられないんだ!!!

ね………いつから………
………………私達、キス……してないの

しっとりと………包んでくれる………

………唇………だったよ……ね………?………

強引に………絡ませる………舌………

だったよ………ね………?………

ヘルメットのバイザーで遮断された唇とグローブに包まれた指先。
思い出せないアスランの感触………

不安が胸を包みこみ、身体全体に震えとして伝わる。

こみあげてくる感情………

もう………逢えないかも知れない………

『………ん゛………ッァ………』

何度も何度もキツく目蓋を閉じても………クリアにならない瞳。
目蓋を閉じれば閉じる程、涙の粒が幾つも幾つも………

『………わかんないッ!!!わかんないよッ!!!』

………アスランの何処がいいなんて………

………アスラン………だから………

だから………私は………

『……すッ…き……な………のッ………』

………何が好きかなんて………わからない

優しさも………

強さも………

弱さも………

………大きな手も、ぬくもりも、鼓動も………

………アスラン………だから…

.

………意識が………

揺らぐ………………

両手首、両足首にたった今、つけられた擦り傷が熱くて、なんとか糸のような意識を保っていた。
気力だけで耐えていたのに、サフィーラに抱かれたことで、一気に体力と共に失った。

右脇腹の傷………どうなんだろう………

あの痛みなら………表皮の裂傷だけだと思うが………

………まさか………

彼女に撃たれるなんて………

.

『………ザラ………』

………やっぱり………出血で………
目を開くのもだるい。

いつのまにか気を失い、点滴を刺されているのすら、気が付かなかった。

『………こ…んどは……何……を………』

見下すサフィーラの瞳。

『生きて、会話が成り立つか………確認の為だ、ザラ。
コーディネーターはナチュラル以上の体力………さらには想定以上の力も発揮する時があるからな』

危険視するあからさまな言葉使い。
サフィーラだって………アカデミーにいたじゃないか………

………この組織構成員は、全てがコーディネーターと言う訳ではない……ということか?

『………な…………ぜ………』

口の中が乾いて、声を出すのも擦れて、少し困難だった。
自力で唾液を飲み込む。
いつもは無意識の行動なのに………
意外に力が必要だった。
僅かに潤った喉を開き、声を出した。

『………なぜ………殺さない………?』
『キミが生きていることに意味がある………今は………ね』
『存在価値だと………』

俺は鼻で笑いたかった。
だが、できたのは唇を歪める程度だった。
頭が働かない………思考が動かない………

………でも………

この男の………サフィーラという男の………
何かを……真意を………探して………

…………止めなくては!!!

『オーブ軍を除隊し………プラントを……追われ、さらにはザフトに…………
ゲリラ犯とされてる俺になんの価値があるんだ………』
『………相変わらず………君は自分の価値を知らない』

いやらしく唇を歪めたサフィーラ。
そして………

『ッぁ………ッぐっ………』

俺は奥歯を必死に噛み合わせて声を殺した。
全身の毛が逆立つ痛み………
歪んだ瞳は俺を見下ろし続けた。

『………いい声で鳴いて欲しかったんだがな………』

サフィーラの四本の指先は真っ赤に染まり、その滴り落ちそうな血液を長く舌を出していとおしそうに舐め上げた。
その………まだ血液の付いた指を………俺の顔に擦り付ける。
つい先程まで………自分の体内を流れていたそれは、まだ生暖かく………
顔に張り付いた自分の血液と、鼻から離れない甘ったるい鉄分の臭いに、胃液が流出し、逆流するのを感じていた。

『………はッ………ッつ………んッ………』

サフィーラにほじくられた右脇腹は更に燃えるように熱を持ち………俺は………

『………気丈だな……アスラン………』

もう………瞳を開くのがやっとだった………
耳にはただ………脈動が聞こえ、自分の呼吸音が、こんなに穏やかに流れるのが不釣り合いだと思った。

『可愛らしく気を失ってくれる芸当ぐらい持ったらどうだ?』

そう、サフィーラに鼻先で言われても………瞬く力しか残ってない………

『レベルAAの特別保存棚にあるはずだ』
………死なれては………まだ………困るので………な

.

………俺を………生かして………
………何にするんだ………?

相変わらずアラート音のように、血液が流れる音は耳に残っていた。
ようやく施された輸血と負傷部分の治療。
同時に、手足の拘束箇所は増えた。
呼吸器をあえてつけさせないつもりでいるらしく………
肩で息をする俺は………

蜘蛛の糸のような………目を凝らして探す僅かな緊張感を存続させていた。

………(生きることが戦いだ!!!)………

………キミは………そう言ってくれた………よね………

俺に………道を示してくれた………キミ………だけど

………………ごめん

………カ……ガ…リ

.

『………よかったのですか?』
『………よくは……ないな』

看護師の言葉にサフィーラは答えた。

『では………何故に生かすのですか?彼には二十数人の死傷者を出されています』
『死者十八人、重傷者四人、軽傷者二人』

キツい問答に、サフィーラは瞳を三日月に細めながら………冷たい声で返事をした。
そんなことはよくわかっている………そう伝えるようだった。

『この場で彼の骸をオーブに返してもプラントに返しても、総攻撃が待っていることには変わらん』
『………』
『例え時間稼ぎに宇宙空間に骸を放流しても攻撃には繋がる』
『………逆に彼をプラントに差し出しては………?』

鋭い視線を向ける看護師。
サフィーラはそれを無視し、話題のアスラン・ザラの身体状況データに指を走らせながらチェックしていく。

『それも一理あるが、奴らにこの戦艦内の探検をされても困るだろ?』

言葉が終わるか終わらないかのうちに、上司であるサフィーラに楯突く看護師。

『ですが………私も含め、彼の治療は納得がいきません!!!彼を存命させるのに………我々の犠牲は釣り合わない!!!』

その声は感情の高まりが押さえ切れずに僅かに噴出させていた。
サフィーラはそれを咎めることはせず………逆にその若き感情を羨ましく感じた。
感情のままの行動は、時に利益も生み出すが………過信による損失も予想外の状態を生み出す。
そして、その情熱的な行動は………今の自分には出来ず………許されないことだと大望により押し殺していた。

『バイタルチェック………データ保存忘れずにしろ。異常は出ることはないハズだ』
………核の具合を見てくる………

サフィーラはそう話し、観察室を出ていった。

.

『シートベルト………した?ラクス?』
『はい!!!』

念の為………と思い、キラは後部座席のラクスに問い掛けた。
彼女は、キラに見えるように………胸にかかるシートベルトを引っ張り、固定されていて伸びないことを知らせた。
そういう仕草が………普段の、空気すら変えてしまう凛とした姿とのギャップが、キラにとってはいとおしく、彼女を守らねば………と言う使命感を生んだ。

『口、閉じていて………』

ヘルメットをかぶった彼女は大きく頭を上下に振る。
ロケットブースタースイッチを押し、加速するスピード。
地上に………引き戻されそうな重力を振り切る僅かな時間は、いつも………内臓が対外に出る感触を生んだ。
そして………

目前に広がりつつある、深蒼の闇に………何かを求めた。

………不安………だから

ここにいることが不安なのか………

それとも

これから起こることが不安なのか………

………わからない

幾度か往復した時は、手の届くところ、視認できるところに目的があった。

アークエンジェルがザフトに攻撃を受けている時、然り………

オーブがザフトに襲撃されている時、然り………

エターナルがザフトから発見された時、然り………

でも………いまは………?

.

『怖いのですか………キラ?』

ピンク色の髪が、コックピット内に広がった。
成層圏を抜け………地球からの重力外に出た。
ヘルメットが苦手………なのだろう………
ラクスはストライク・フリーダムの加速が弱まったのを悟った頃、早々に外した。

宇宙に出て………

先に上がったシンと連絡を取らなければならなかった。
捜索を命令したイザークとディアッカとも………

自分でも………口から出た言葉ではあるが………後悔している。
………アスランに傷つけられた傷が………熱を帯びている気がする。

もう………とっくに………

塞がっているのに………

………度胸なんて………一片もないのに………

なんで………あんなことを言ってしまったんだ………

この………ボタンを押したら………

この………通信ボタンを押したら………

………僕は………
現実になってしまったかもしれない事実を受け入れなくてはならない。

(………アスラン・ザラの緊急捕獲を命じる)

(手足がなくなっていてもいい………)

(意識が………あれば……)

(最悪、遺体でも構わない)

(必ず確保を)

.

『父も………パトリック・ザラも、ギルバート・デュランダルもシンボルでしかないんだ、今は!!!』

クソッ………

まだ怒鳴ると右脇腹が痛い。
奴ら………最低の止血だけ……したのか……?
血液は足りているようだから………怒鳴っても頭痛や貧血は起こらなかった。

『その論理から言うと、オーブ代表もだな………』

サフィーラの瞳が煌めく。

カガリを………

『そうとも言うが、彼女はまだ考えを述べられる。シンボルからは………外れるさ』

俺は、サフィーラの手元にあるゲーム盤を横目で無気力な気持ちのままにらんだ。

………なんで………こんな問答に………

.

耳元でコツコツ響く石と石の音が煩く、俺は瞳を薄く開けた。

『………漸く気が付いたか………それとも、漸く瞳を開く気になったか………』

再び、コツ………と音をさせる。

『キミが気を失っている間に準備が色々整ってね。私は安心してゲームができる』

満足そうに含み笑いをしながら、サフィーラは再び駒を動かす。
コツ………と音が医療機器の僅かなモーター音の間に響く。

『………ブラインドチェス………か』

俺は音が鳴らされるそれに視線を移し、だるく呟いた。
嫌な………思い出しかない。
信用できるだろうと安易に思い、広げてくれた手の中に飛び込み………力を

………与えてもらったあの日。

あの日も………
モニターに被災状況が入れ代わり映し出され、緊張感の走る気持ちの中、薄暗い光の中で照らされた………

『………プロモーションだ』

溜め息のように吐き出したサフィーラの声は子供のように嬉しそうな明るさがあった。

『キミなら………何にする?』
『………クィーンを』

俺は、定石の答え方をした。
角度的にも、どのようは配盤になっているかわからなかったから………。
プロモーションするポーンが白か黒かもわからず、ただ問われるだけなのだ。
その時、サフィーラは声をたてて、

『そうだ!!!通常の手はそうなのだ!!!』

大きく口を開けて笑いだす彼に、俺は先の展開を探る。

………何が言いたいんだ……サフィーラは………

そう、思考が巡り初めかけた頃、サフィーラの手はチェス盤の上を凪ぎ払った。
音をたてて転がり落ちる駒。
勢いよく飛んだものは俺の右腕に幾つかぶつかった。

『何故お前はアンダー・プロモーションをしたのだ!!!』

………お前程の男が………

ゲーム盤さえ狂わねば………

世界を………

手にすることすらできるのに!!!

.

『何故お前はアンダー・プロモーションをしたのだ!!!』
『!!!??』

怒りなのか………

絶望なのか………

悲痛なのか………

俺が………
彼の内面を見たのは………

これが初めてだった。

『俺にはそんな器は持ち合わせていない』

熱を帯びた彼の声音に飲み込まれないように………俺は冷静に答えた。
再び高らかに笑い出した彼はチェス盤の上に何かを置始めた。

『君は………ただの兵士だった………』

俺は、その話のくだりを………過去にも………聞いた。
だから………なんなんだ!!!
俺に………何を求める?
………俺に!!!

聞きたくなくて、俺は眉をひそめた。
顔の向きをサフィーラと逆に向ける。

『………デュランダル元議長が、君に兵士を求めた。
私にしては、それは愚かなことだと………』

彼は、チェス盤に乗せたものをコツコツ言わせた。

『君の能力は………ホントに優秀だからね。
ザラ元議長の跡を継ぐことは出来たのだ。
第三勢力としてね』

コツコツ鳴らしていたチェス駒の音が一度途絶え、再び、バラバラと音が響く。
新たに駒が乗せられたようだ。

『そうすれば………君はここでその有能な力を振るえたのに………』

憧れを含めるような甘い言い方に、俺はぶっきらぼうに応答した。

『俺はそんなことは全く望んでいない。
だいたい、俺は政治になんか興味はさらさらないんだ!!!』
『レノア・ザラ』
『!!!』

俺ははっとしてサフィーラに向いた。
他人の口から母の名前が出るのは………もう、何年も聞いていない。

そう………何年も………

『彼女がいれば、君は兵士の道を歩かなくてもよかった。
もともと………階級が上位の君だ。
その統治能力も………』

.

『彼女がいれば、君は兵士の道を歩かなくてもよかった。
もともと………階級が上位の君だ。
その統治能力も………』

サフィーラは、手にしていた兵士の駒から手を放した。
黒の兵士の駒は………白陣の1ランクに置かれていた。
相手側の最終ランク到達した兵士………ポーンでしか出来ないクラスチェンジ。

そう………彼の母、レノア・ザラが、血のバレンタインの事故に巻き込まれていなければ………
コーディネーター能力の高い彼が、わざわざ兵士となる必要はなかった。
しかし、再びこの上位に上りつめてしまうのは………元来の素質であろう。
両親が求め、アスランに送って有能な遺伝子………
それは、母親の死をもって他素質への成長を促し、発芽させた。

しかし………再び戻る上位階級なのに………

彼はその中では………

『おかしなものだ』

俺は笑った。
じっと見つめるアスランの前で含み笑いをする。

『君は何をもって生きているんだ?』

睨むように見つめる彼の前で、俺は再びチェス盤に転がした駒のひとつを立ち上げた。

『プロモーションで君が選んだものはクイーンではないだろう?
次の盤で、即座に安全且つ、自由にキングが動けるように………』

………選んだのは

ルークだ。

.

『君には欲がない』

睨んでいた瞳は徐々に開き、輝きは鈍るアスランに、俺は更に畳み掛けた。

『復讐心もない』
俺は唇を三日月に歪めた。

『父も母も………殺されながらもその無念を弔う訳でもない。
有能な君を世に送り出そうと、試行錯誤し、殺されし両親が選びぬいた遺伝子のギフトを、君は使おうともしない』
『………だからなんだと言うんだ』

急に瞳に光を戻したアスラン。

俺は………

彼に対する地雷を踏んでしまったのだろうか?

『では、君は両親の敵を取るため、ラクス・クラインと刃を交えるかね?』

彼女は………
変わらぬ思いと共に

親の願いと自らの願い、叶えておるではないか。

時代の本流を………変えることで………

反対勢力である君の父親であるパトリック・ザラの意志を継ぐもの達をも、大きな流れに巻き込んで………

『撤回しろ!!!』

俺の言葉が終わらないままアスランは叫んだ。

『ラクスは復讐の為にプラント議長になったのではない!!!』

睨む翠の瞳はひどく熱を持っていた。
彼はそのまま話しを続ける。
今まで………俺が彼を不快にしていた言葉達を払拭するように………

『ラクスはカガリがいるから議長として世界を導くことを選んだんだ。
彼女達が求める世界はひとつだ。
サフィーラ!!!
………君が考えているほど、彼女達は傲慢じゃない!!!』
『………なるほど』

俺は瞳を細め、アスランを見下ろした。

『君が………いや、君たちが守りたいキングはカガリ・ユラ・アスハと言うわけか………。
そして、彼女の為なら戦局を少しでも有利に導くように………ルークになると
………アスラン、君は言うんだね』

.

再び唇を閉じたアスランに、私は笑いかけた。

『クィーンにナイトにルーク………ビショップはオーブ首長会か………。
君が望む未来は彼女の望む未来だとでも言いたいのかね?』
『それの何処が悪い』

答えては口を一文字にするアスラン。
それだけ………彼女に心酔しているのか?

ならば、殺さないことと矛盾する。
彼女に愛情を持って接しているのは間違いないだろうが………
アスランの行動にはそれ以上の理由があると言うことだ。

『悪いことはないさ。
何に置いても君は馬車馬でしかないことが面白いだけさ。
世界を争いに導いたコーディネーター二人の時も今も………』

そう………君は、周りの状況に囚われすぎる。
だから、自身の動きが全て後手に回るのだ。

『父も………パトリック・ザラも、ギルバート・デュランダルもシンボルでしかないんだ、今は!!!』

あぁ………ムキになっちゃって………
可愛くて仕方ないよ、君は………

『その論理から言うと、オーブ代表もだな………』
『そうとも言うが、彼女はまだ考えを述べられる。シンボルからは………外れるさ!!!』

眉を寄せながら話すアスランに、俺は確実に興奮してくる。
命を賭けたデス・ゲーム。

そろそろ………待ち合わせの時間になるだろうか………?

.

………なんだ………あれは………

資源惑星に擬装した戦艦。
アスランと別れた時間と向かった方角から凡その検討をつけて向かった空間。
隊長機ゆえ、光により反射する自分の機体を擬似隕石に見せるように工作は施した。
それでも………先手必勝!!!
なるべくなら気付かれないようにしたい。
ズームレンズをめいいっぱい使ってメインモニターに映されたもの。
明らかにナスカ級戦艦を改造したものと………想定出来る。

………ディアッカを待ってから入るか………

でも、機会があれば直ぐに入らなきゃ、アスランが………

(………アスラン・ザラの緊急捕獲を命じる)

国防長官であるキラ・ヤマトの声がよぎる。
(最悪、遺体でも構わない)
(必ず確保を)

『確保はしてやるッ』

だが………俺は………遺体を持ち帰るつもりはないッ!!!

慣性運動に切り替え、隕石に模した速度でモビルスーツを動かしながら、イザークはモニターを睨み続けた。

.

隕石の偽装部分にモビルスーツを取り付け、後から追い付いて来るであろうディアッカやシン、キラが迷子にならないよう、三分に十秒単位で電波を流すようにした。
自分が何故、こんな行動をするのか解らない。

………あんな………腹立たしい男………

力があるのに、使い方を知らない男………

今回だって………奴の行動はオレにはこれっぽっちもわからんッ!!!

ムカムカしながら銃火器を身に付け、戦艦の出入口を探す。
船体の下方に回り込み、甲板を見上げる。
ゆっくり歩行するモビルスーツが宇宙空間に飛び立ち………幾つもの光が集まるのを見て、集合しているのを黙認する。
モビルスーツハッチが、一番目立たず………自動的に開けてくれそうだ。

………ザフト製でよかった………

イザークの頭に妙な安心感が生まれる。
同胞同士での殺し合いは極力避けたいが、使い慣れた製品の特性と欠点を利用できることは自分にとって生存率を高められる。

………そして

『なんであのバカの為に俺が動かなきゃならんのだ!!!』

そう………ヘルメットの中で怒鳴る声とは裏腹に、口元には笑みを浮かべるのだった。

.

『どけ!!!アスラン!!!』

銃口を向けたままのイザーク。

『撃ちたければ撃て!!!』

アスランは叫んだ。

『サフィーラ!!!お前もだ!!!』

アスランは背後を向く。

『俺はエオリアを離すつもりはない!!!』

断固とした声が………空間に広がる。
その声に、イザークは唇を噛んだ。
もう少し………様子を見ていた方がよかったのだろうか?
僅かな判断ミス。
でも………

あの………サフィーラ……だと!?

アスランと同室だった………あのサフィーラが、どうしてここに………

アスランの性格の甘さを加味すると、先手を打たないと事態は悪化する。
その判断は間違いだったのか?

.

戦艦内部に侵入した時には既に混乱していた。
モビルスーツ部隊が発進していたのは、次なる攻撃の為かと考えていたが………実状はそれだけではなかった。
後ろ手に腕をひねりあげた女の戦艦員に尋ねる。

『マドモアゼル・マリアが人質に捕られたのです!!!
そしてサフィーラ様が、モビルスーツ部隊の降下を早急に行えと………』
『貴様ら!!!また街を焼き払うつもりか!!!』

イザークは思わずひねりあげた腕に力を入れる。
なんとか守ってきた平和な時間をまた………潰されるものか!!!
俺だけの力で保ってきたわけじゃない………
………だから、アスランが

………ここに……単独で乗り込んで来たんじゃないか………

『いッ!!!そんなことはしない!!!崇高なるクロムグラスにかけて!!!』
『………クロム……グラス………』

ヘルメットの中で眉をひそめるイザーク。

『なんだそれはッ!!!』

再び軽く、戦艦員の腕をひねりあげた。

『ッァ………』

呻くような悲鳴をあげる彼女。

『言えッ!!!質問に答えろッ』

痛さのあまり、肩で息をし出す彼女。
途切れ途切れの声も、押し殺してはいるが、震えを隠し切れなくなっていた。

『ち……地球……じょ……かさくせ………』
『方法はッ!!』

畳み掛けるように質問を続けるイザーク。
直ぐに回答を出せとばかりに、再びひねりあげた彼女の腕に力を入れる。

『………ッあ……アフリカ砂……に、植物プラントッ………てて……りょく………』
『………』

イザークは彼女の腕を手放した。

カチッ

『!!!』

戦艦員の彼女が嘘を言っていないことはわかった。
だが………
単なる緑化作戦を行う為に、わざわざ降下を急がせる理由がわからない。

『サフィーラと言う奴のところまで案内してもらおう』
『それには及ばんッ!!!』

太い男の声と共に、チラチラ感じていた殺気が増幅する。
とっさに戦艦員を声のした方向へ強く押し出し、イザークは自分の攻撃の盾にしようとした。

『きッ!!や”あ”あ”あ”あ”…………』
『!!!!!』

イザークが引く引金よりも早く、相手方の銃口が先に火花を散らす。
銃弾が………彼女の体内に入り、散弾し、内部破裂を起こす。
鮮血が飛び散り、肉片が宙に浮かび、白い骨片が弾けた。
形を留めなくなった生き物。
胃液が逆流しそうな気分を押さえながら、イザークは引金を立て続けに引いた。
幾つかの呻き声を感じ取る間もなく、イザークは通路の奥に身を隠すのだった。
味方に対し銃撃するのは………まともな考えではない。

『………本当に遺体回収になるかもな』

イザークは壁面パネルにアクセスし、パスワード入力画面が表示されたと同時に眉をしかめた。
腰に備えてきたヒップバッグからコードとデジタル端末機を取り出してハッキングをかける。
取り出したパスワードを自分の指で入力、現在位置を確認し、艦内データにアクセスする。

『………格納庫……非常用………』

俺だったらどうする?
五体満足のアイツを相手にするなんて………同じ体力を持っていても正直ごめんだ!!!
どこかに傷を負わせて、おとなしく閉じ込めて置く方が楽………

『薬品庫と………独房………』

医局に近くて………手薄な場所………
さらに、この戦艦の中で分離できるような………
瞬きを忘れ、左右に眼球を動かし、現れた画面をいくつもスクロールして適応しるような空間を捜し出す。

『………ここッ』

他は慌ただしく気圧変化があるのに………隔離されたようにここだけ………
何かが抜けている。
そう感じ、向かう通路を頭に刻み込む。

イザークはそっと床を蹴り上げ、身体を宙に浮かせる。
壁に両足を押し付け、思いっきり蹴り込んだ。
自ら放った力の反動に、身体は半無重力の世界を突き進む。
十字になった廊下で、テロリスト達に会うも、直ぐ様銃を発砲して足留めを繰り返した。
そして………

『例え、彼女が俺のことを敵だと思い続けても!!!』

少女の肩を抱き、叫ぶアスラン。
俺は………どうしたらいい?
アスランと共にいるのは………

………マドモアゼル・マリアが人質に捕られたのです!!!
そしてサフィーラ様が、モビルスーツ部隊の降下を早急に行えと………………

気にも止めなかったが………あの、アスランと同室だった………

アカデミーの先輩のサフィーラ!!!

.

同室のアスランを身内の………弟のように可愛がっていたサフィーラ。
成績上位な彼は更に面倒見が良く、俺達も含めコーディネーターの能力底上げにアカデミー学生の頃から貢献していた。
後輩である俺は、今の在校生の中でサフィーラが最も最短期間で部隊長に昇進するのではないかと………夕食後、ディアッカ達と話したこともあった。

………そんな

………相手を敵にするのか!!!

あのヒトの下で働いてみたい………そう、憧れすら抱いていたサフィーラを!!敵に!!

『どけ!!!アスラン!!!』

俺は銃口をサフィーラに向けた。
今の上司はキラ・ヤマトなんだ!!!
アスランが身を挺して守る少女が、この組織の象徴ならば、二人を手中にするのがこの事件を終末に導く一番最善の方法。

『撃て!!!お前はそう言われてきているんだろッ!!!』

アスランの緊迫した声が空間を瞬間埋めた。
その声に、イザークは唇を噛んだ。

『………アスラン!?………』

イザークは冷静とは思えない彼の言動に驚いた。
尋常……とは言えない。

だいたい………あの、庇っている少女はなんだ?
………テロリストの………代表だろ………彼女は………?

でも………さっきの殺された女は【マリア】って………
だが、アスランがキスしてた【アリア】と言う少女とは………別か?

腰を落とし、少女を抱き寄せるアスランの身体を観察しながら、イザークは考えを瞬時に巡らせた。
アスランの着ているパイロットスーツからは外傷は見えない。
俺が強く掴んだ左肩も………どこまで傷ついているのかはわからない。

それにしても………

………おかしくないか?

呼吸時の身体の上下度………
あれって………肩で息をしてるよう……じゃ
アイツ………スーツの下に幾つ傷を抱え込んでいるんだ!?
くそ………顔が見れない………いつも以上に白くなっているんじゃないのか!?
早く解決しないとまずいだろッ!!

『………ディアッカ……早くこいッ!!!』

思わず呟いてしまう。
ヘルメット内のスピーカーにはノイズすらまだ入らない。

『………アスランを助けるんだろッ………』

呻きにも似た独り言。
静まりかえる空間は、かすかな空調の音と、少し深い呼吸音が流れていた。

.

『アスランッ!!!その女をサフィーラに返せッ!!!』

イザークは叫んだ。
離さない視線の先で、サフィーラは口元を僅かに緩ませた。
アスランの体調が万全ならば………彼女を抱えていても逃げられる。

………万全……ならば………

どの方向で検討しても、結論は二人を安全に助ける流れにはつながらない。
テロリストの象徴である彼女を撃つにはアスランが邪魔………

直線上に並ぶアスラン、少女、サフィーラ………

イザークは徐々に左に歩ませる。
サフィーラとはお互い射程距離内ではあるが………
アスランと少女に何か動きがあるとは思えない。

彼らを狙撃することは………ないだろうが………

予備として………奪ってきた拳銃を左手に握り、俺はサフィーラに狙いを定めた。
右手は背中を向けたままのアスランを………

最良の方法を叩きださねば………俺も………共倒れになる!!!

俺は再度怒鳴った。

『アスランッ!!!解放しろッ!!!』
『俺の妹なんだ!!!エオリアは!!!』

銃口の先のアスランを見つめ……冷静沈着な親友に戻ることを願っていた。

………が

………何を言っているんだ………あいつは

アスランの間髪入れない返答。

眼球に当たる空気がやたら冷たく感じ………自分が驚いていることを悟った。
そして………サフィーラがいやらしく微笑みを浮かべたのが、目の端に映った。

『エオリア……アスランを撃て……』
『………サフィーラ?』

アスランに抱き締められたエオリアは、命令を下した指揮官に目を向ける。

『アスランを殺せばオーブとプラントの均衡は壊れる……我々の望む緑の世界を……地球は取り戻せるのだ……』

………砂漠にグリーンベルトを復活させる………

それは、ベッドの中で何度も何度も聞いた話し。
遺伝子改良して、短期間成長に成功したあの植物を育てて………私が生きる為には食べていかないといけない、あの植物を………。

『エオリア……あいつは……サフィーラはそんなことは思っていない……間違うな…エオリア………』

アスランが私の両肩を掴み、瞳を覗き込む。

『アスラン・ザラ……何を……言う』

何故………私の声は震えるの………?

胸の中の不安が、身体中にアメーバのように広がっていく。
ベッドに括り付けられているアスランを解放した時から変………だ。
いつもの意識を盗られる、全身を貫くような高い鋭い音とは違い………
波紋が広がり、浸透していく音から解放されていく………
今まで………感じたことのない幸福感と、糸がほつれていく漠然とした恐怖。
私が自由にしたアスランに、肩を抱え込まれ、共に逃げるように伝えられた時から………甘い不安が雪のように降り積もる。
そんな心情とはかけはなれたアスランの翠の瞳は一片の曇りなく澄んでいて………その瞳から離れられない。

それが………

氷の刃のように………
波紋が固まっていく

………いも…う………と………?

………それは……ない
私には記憶がある。
サフィーラと共に過ごした記憶。
この艦内で神に祈りを捧げたことも………
幾つもの記憶の中にサフィーラが………

………私は………

………試験管ベビーだ

組織幹部の崇高な意志の下、サフィーラが後見人となって………
着床後銃弾に倒れた母……戦場の奇跡………
それが………私……では………なかったの………?

『君の記憶は元々ないんだ……エオリア……だけど……君の瞳は……その指先の形は………俺と……』

柔らかな………アスランの声………

心地よい声………

………決して………
私を生み出したのは………

今ある記憶は作られた…?

あぁ……でも……

その翠の瞳……

なんでそんなに私のと酷似している……の?

私のと………

私の心は揺れて……揺れて………
深い黒い不安が指先までにも席巻する。

『違う!!!これはサフィーラが選んだんだ!!!』

.

『シン……今……』

一つ目の銃………声………
黄金色の瞳は大きく見開いた。

『シン……アスランを早く探さないと……』

頭が真っ白になる。
うわごとのように、唇が動いた。
自分達に向けられたものではない。
たった今、一個師団に手溜弾を使って倒したばかりだから………

『わかってます!!!』

手持ちリュックの中に手を突っ込み、導線を引っ張り出すシン。
トラップを仕掛けるよりも早く………アスランを………
カガリは胸に広がる不安をなんとか押さえ込みながら、アスランの無事を祈った。
だが………手の震えが………止まることはなかった……

『………っ……』

震えるエオリアを抱き締める手に力を入れる。
温かなものがじわじわと広がり………
流れて出ていく血は……徐々に体温を奪い始め出した。

『……ぁ……ぁ……』

声にならない声をあげて震えるエオリア。
同じ………翠の瞳から、涙が一筋、流れ………

『………だ……い…じょ……うぶ……だからっ……』

そう………告げるのが………精一杯だった。

涙の流れたエオリアの頬に…俺は口付けた。
まだ………彼女の頬に触れても温かいと感じない。

………急激な体温変動は起きていない。
………大……丈夫…だ

『でも……血が……私が……』
『……危ないから…俺に貸して?』

アスランは、エオリアの指をひとつひとつ拳銃から剥がしていく………。
固く握られた指先は……血の抜けていく冷たい指先で剥がすのは……少し……困難……で………

『何やってる!!!アスラン!!!早く離れろ!!!』

………その……出血速度………

息を飲むような最後の一言。

………バカだな、アイツ。
こんな怪我、たいしたものじゃないだろ………?

叫ぶイザークの声は心なしか震えていて………
俺は思わず口元を緩めた。

………エオリアの撃ち放った銃弾は………

俺の左大腿部を見事に撃ち抜いていた………

.

………骨、砕けちゃった……か

銃創がやたら熱い………

パイロットスーツの下の肌着がやたら冷たく感じる。
俺は緩んだままの唇を動かした。

『……だいじょう…ぶだ……イザーク……』

………まるで

呪文………だな………

『まだ………お前の部……下…に………なってない……だろ………?』

自分がピエロに思えてくる。

そんな………16の時の約束なんて………

………今さら………なんだっていうんだ……?

ピエロなら………ピエロらしく、幕はきっちりおろさなきゃ………な

俺はエオリアから拳銃を取り……あげた。

『エオリア……君に……これ…を……守って……くれる……から』

………あぁ………口が………

思うように回らない。

俺は、エオリアの……開いている震える手のひらに……首から下げていたハウメアの石のペンダントを置き………握らせようと、手のひらで彼女の指先を包み込んだ………

『甘いな……アスラン・ザラ……そしてエオリア……』

.

『また……銃声!!!』

シンが呟く。

『どっちだ……どっちなんだ………』

カガリは狂いそうだった。
誰を傷つける銃声なんだ………

誰を………

そして……

考える時間なく

また

ひとつ………

『アスラン!!!』

……………見ることのない神様へ

開かれていた扉………

緑がかった藍が………

鮮やかな赤が………

.

見ることのない神様へ

この熱いものはなんですか?

僕は………彼女を………

守りたいだけなのに………

.

『……か……がり…』

私の瞳は何を映しているのだろう?

頭の中で情報は再編されているだろう。
再編された状況を飲み込むことが出来ない。

………いや

すでに瞳に映ったアスランすら………信じられない。
アスランの白い頬に………赤い………

身体を抱き寄せ、いつもの強い力で抱き締めて欲しい。
私の耳に貴方の鼓動しか聞こえないくらい………
………キツく………キツく

呆然とした頭で、私は何も出来ず、ぬめる床に膝をついた。
勢いで床に倒れたまま………
アスランの…穴の開いた肩口から、血が吹き出ている。

『しゃべるな……アスラン!!!』

なんで……また……こんなに傷ついているんだ……

.

『………また……ないて……』

穏やかな翠の瞳を細めるアスラン。

『黙れ!!!アスラン!!!』

頬を伝わるものが熱い………
濡れる頬で、意識を瞬時に切り替えられた。
慌てて取り出したハンカチ。
肩口の傷を……止血しようとハンカチで締め付ける。
締め付けても……点々と赤が染め………すぐにハンカチから血液がぽたぽたと床に……

『……いもう……と……なんだ……』
『黙るんだ!!!』

涙が溢れる。

世界が滲む。

『たすけ……て………えおりあを………』
『黙ってよ……アスラン…』

貴方しか映らない世界なのに………滲んでいく………
思わず抱き締めたアスランの身体。

いつも………熱い………のに………

『おれ…の……いも……と……えおり…あ………』

擦れた………声………
………消えて………いく………好きな声………

.

急に重くなったアスランの身体を支えきれず、引っ繰り返りそうになるのをこらえる。
気を失ったのだろう………アスランを抱き締め、私は振り向いた。

『シン……そのコは……』
『……わからない……助かるか……』

突き抜けた銃痕から溢れる血にかまわず……アドレナリンを注射するシン。
巻いた包帯は既に赤に変わっていた。
額に汗を浮かべて心臓マッサージを行うシン。
汗が目に入ったのだろうか………頭を大きく振るも、手の動きを止めることはなく、続けられる。
施術を受ける少女の身体は、シンの力に軽く上下に動き………手から……何かが音をたてて………

落ちた。

『………ぁ………』

カガリの小さな声に、シンは反応して……彼女の視線を追う。

『……これ……アスランの………』

エオリアの手からシンは拾い上げ、カガリに振り返る。

『……あ……』

シンは声をかけられなかった。
声にならない声で……ひたすら泣き崩れるカガリ。
白い肌が……透けていくようなアスランをひたすら抱き締めて………。

……(…お前……危なっかしい…)……

そう言って……二回目の別れの日にかけたネックレス………。

私が与えた守りは……言葉通り、彼を守り続け………

………そこまでして………

彼女を……守りたかったの………?………

.

『血液パックは?!』
『もう……それで……終わりだよ………』
『クソッ………』

ディアッカに問い掛けたイザークは、その返答に悪態を吐いた。
握り拳で机を叩いた派手な音が響くが、アスランを治療する無感情なロボットの声を遮ることは出来なかった。

『………バイタルチェック………バイタルチェック……』
『ライン100アンダー』
『………血圧58………』
『………酸素吸入準備中………酸素吸入準備中………』
『サーチレーションダウン。点滴準備開始………数値85……84……80………』
『レベルツーからレベルスリーへ移行』
『………酸素吸入開始………酸素吸入開始………』

慌ただしく重ね合う音………
明らかに不貞腐れた表情のイザーク。
なんて………言葉をかけてやればいいんだか………
視線を彷徨わせて見るものの………見たくもない現実ばかりだ。
俺は所在なく、床を見つめた。
アスランの血が落ち………その上を俺かイザークか踏んだようだ。
擦れた跡と、踏んだ靴に着いた血糊が幾何学的模様を描いていた。

イザークと別れて………父親のところに行き………アスランが建造していたコンテナを誘導し………キラとラクスと合流した。
何も言わずに検査結果だけ………議長であるラクスに、俺は手渡した。
半透明な水玉が、流れる桃色の髪と戯れるよう、幾つか宙を舞うのを………見てはいけないものと認識しながら………見ていた。
俺も………泣けたらいいな………
そう、感じていた。

『本人だって……わかって……準備はしてたと思うぜ………』
『わかっている!!!』

自分の声が情けなくも擦れてる。
予感はしていた………
止められなかった俺も悪いんだろッ
アスランの両腕についた………無数の針の後………まるで……

『………ギリギリだな』
『………あぁ………』

………準備しすぎなんだよ!!!
輸血する状態になること想定して………

………血を………分けた妹を………

助けに行くなんて………
それって………まるで………

………自分の…命と………

引き替えじゃないか!!!

.

あるところに政を司る家と、軍を司る家がありました。
仲が良かった両家は年回りの同じ子供を婚約させました。
軍を司る家は平和の足音が聞こえてくる頃、もう一人、子供が欲しいと思うようになりました。

科学の力を借りた生命の誕生………すくすくと育ったその赤ちゃんは、生まれる日を待ちました。
母の手で抱かれる日を夢見ながら………。
そして、夢見たその日が訪れました。
その子を取り上げたのは父でした。

泣いてました。

そして、誕生と同時にまた、元の世界………試験管の中に戻されてしまいました。
自分に似た………その子に、過去の思い出を重ねてしまったからです。

そして、白衣を着た技師達に話しました。

なるべく早く成長させるように………と。

父はその子が成長するのを待ちました。
足繁く通い、大きくなるのを確認しました。

でも………

その目には感情はありませんでした。
手元のデータ資料を眺める時間の方が長くもありました。
成長が悪いと………眉をしかめて怒鳴った時もありました。
試験管の中で育てられた子にはその怒鳴り声は聞こえませんでした。

聞こえなくて正解………でした。

厚い防音ガラスに阻まれ、更に旧世代の有名な音楽が常時流されていましたから。

『早く成長を急がせろ!!!薬!?それは………細胞内に残留するものか?残留しないものなら構わん!!!』
『スペアにするのだ!!!あいつしか私にはいないのだ!!!アスランしか!!!』

軍を司っていた彼は、政をも司る位に上り詰めていました。

………同じ遺伝子を受け継いだのに………

戦争で失った奥方の希望………

………愛しいヒトの容姿を映した子は………

最愛の奥方の容姿を映した子を生かす為のスペアとして、生存させられました。

『!!!見つかったか!!!アスランが!!!早く呼び戻せ!!!私の配下に置く。もう………』
………前線からは………

握り締めた資料の中に、前議長からの資料も………

『………まさか……アスランが………早く細胞治療しなくては………』

.

いつからでしょう………?

イザークの悲鳴めいた裏返った声がスピーカーに入ってきて………
ザフトの特殊部隊とフェイズに艦内鎮圧を指示するキラの手を握りしめた。
その時には………気が付いていたの。

でも………

………お伽噺にしか………考えられなかった。

確かにおばさま………
………話していらっしゃいましたけれど………
………でも

計算があわないの。

どんなに計算しても、あの頃の私は14歳で………

でも………
意識を失ったアスランと一緒に運ばれてきたあの女の子は………アカデミーに入れるくらい。

そう………

計算と三倍ぐらい………違うの………

深く………浅く………回顧しながら、キラの肩に頭を預けていた。
彼の温かさが伝わる度に、哀しい感情が昇華されていく………
プラント議長ラクス・クラインは、瞼をそっと開いた。
一瞬のまばたきで、まつげから細かな涙が細かな水玉となり二人の間に漂った。

『………ラクス』

押さえられた声。
それでも、緊張感の抜けない身体はびくんと軽く反応してしまった。
優しいキラが、次に何を告げるのかは予想出来ていた。

でも………

敢えて、私からは話さずにいたい。

………問われたら………答えましょう。

だって………悲しくなる………だけなのですもの………

『………さっき医者に………』

問い詰められると思っていた。
消えない緊張感は予想していた終着点とは違うレールを走りだしていた。
肌の下がざわつく不安。
キラの淡々とした告白………

『キラ………それは………』

瞬くと、涙が宙に浮かんで行った。

『うん。わかっているよ。アスランの意志とは真逆なこともね。僕はね、ラクス。親友のアスランを裏切ってでも………』

それが、僕の………

.

『ようやく……出れるんだ……アスラン……』

ICUに入って1週間……
未だに意識を戻してはいない………

『うん……』

キラの言葉にカガリはうなづく。
これから一般病棟にて彼の回復を見守るしか方法はなかった。
だが、それでも………回復はしているのだ。
消毒薬に浸したビニールに包まれた手で、アスランに触れることからは解放される。
それだけでも………カガリにとっては気が休まった。
アスランにとって………自分がとんでもなく………害のあるモノに感じてしまっていたから。

『私は………アスランに許してもらえるのだろうか………』

カガリは常に不安だった。
助けて欲しいと言われた少女の存在。
オーブに迷惑をかけないよう、軍を辞めてまでプラントを拠点としていたテロリストの組織破壊をしようとしていたこと。
そして………アスランの愛が自分だけに向いていた訳ではなかったこと。
身勝手なことだと………心の片隅で僅かに思う。
私はオーブの為に………と、日々働いていて、アスランの愛に100パーセント応えているわけではなかった。
熱いキスをされ、翠の瞳にねだられても………仕事のせいにして何度も断った。
疲れて先に寝ている私に、天使の羽根のように………触れるように唇が落とされた。
それなのに、自分だけに向けられた愛情ではないという一面を知り、アスランと自分との愛情の深さを天秤にかけ、自分には一点の曇りも無いように虚飾し、思い込もうとしていた。
私はアスランだけを受け止め、アスランだけを愛していると。

シンの指先に酔いしれ、アスランとの行為を思い浮かべながら男の肉を欲する寸前まで乱れそうになったこと………など、カガリは記憶の海の藻屑としていたのである。

そして………私は………

『………わからない』

だって………僕だって……今のアスランのキモチ……わからないんだから……
こんなこと………ダーダネルス海峡以来かも…

そう、呟かれたキラの声は、舞い上がる冷たい風の中に消えて行くのだった。

.

……………―――

………―――

…―――

暫く聞いてなかった。
明るい笑い声が、耳を通り抜けていく。

俺の………心を軽くしていく。

『はい、アスラン』

皿には緑色の丸い物体が、ごろんとのっている。

『今日は何味でしょう?』

楽しそうな声。
クイズ形式にしても………この甘酸っぱい匂いの前では意味がない。

『グレービーソースたっぷりのケチャップ味』
『ピンポンピンポン!!!』

持っているロールキャベツ入りの皿に、レードルからソースがかけられた。

『だって、今日はパトリックも一緒なんだもん』

………そう

父上との食卓に出される時は父上が好きなグレービーソースになる。

『ママ……アリアのも』

隣から小さなロールキャベツ入りの皿が出てくる。

『はい!!今日はおかわり出来るかな?』
『するもん!!!アリアも好きだもん!!!兄さまに負けないもん!!!』

むきになる少女に、母上は笑いを堪えながら、どろっとした褐色トマトのソースを皿に入れた。

『あ………アスラン!!!パトリックのも持っていって!!』
『アリアも持つぅ!!!』
『アリアのお仕事はパパを呼んでくることでしょ?』
『えぇ!!!だってパパ怖い!!!』
『パパは難しいこと考えいるから怖い顔になっちゃうのよ………あと、ちょっとしたら優しいパパに戻るわよ?』
『あとちょっとって?』
『戦争が終わったらかなぁ?』
『え………』

テーブルに父上のロールキャベツ入り皿を置いた俺は、二人の会話に振り向く。

『………戦争……してるの?』

うなずく母上。

『そうよ………アスラン』

………だから、私は

………ロールキャベツ食べれない………の

.

柔らかく笑う母上………

母の輪郭が葉となり、風に舞うように消滅していく………

『母上!!!』

叫び声を上げながら、俺は駆け寄ろうと………

………足……が

………足が動かない

『………兄さま』
『………あり……ぁ……?』

俺の身体に抱きついた妹………

………妹?

俺は………いつ………

混乱した頭を抱えつつも、俺は妹に手を伸ばし頭を撫でようと………

『………ぇ』

………触れない………

『さようなら、兄さま』
『さ……さよならって………』
『パパが呼んでるの』
『父上が?』
『うん。ほら………聞こえない?』

………確かに………誰かを呼ぶ父上の声が聞こえる………

『でも、エオリアって………』

俺の足に抱きついていた少女はきょとんとして………

『兄さま忘れちゃったの?
ママが【アリア】って付けたかったけど、パパがそれじゃ淋しいから………光から名前をとってエオリアって………』
『………ぇ』
『兄さまと同じ光だから………いつまでも一緒にいられるようにって』

ふわりと浮かび上がったアリアは………

………さようなら

………アスラン………

冷たい口付け

………頬が

冷たくなる。

………濡れて……る?

………ラン

……て…………アスラン………

『アスラン!!!起きて!!!』

.

重たい瞼を上げた。

頬に………何かが走った。

きっと………俺の涙………だ。

血のバレンタインさえなければ………

………俺は

こんなに………も………

そう、思うと

涙が再び溢れ………

『………あす……ら』

口が………開かない。
瞳を動かす。

直接喉に入れられた呼吸器があるのか………
食い入るように見つめる黄金の瞳がある。

………また

………泣いて………

俺はゆっくり瞳を閉じて開けた。
凝視する間に、溢れる彼女の涙が遠慮なく落ちた。
手を動かすと、肩から激痛が走った。
嫌なほどに………現実に俺は覚醒したことを理解する。

………俺

生きて………たんだ

カガリの腰に手をなんとか伸ばす。
ぬくんだ人肌に触れる。
近づいた彼女の顔。
俺は再びゆっくり瞳を………

冷たい………濡れた唇が

………触れた

.

くゆらす煙草の煙の先を、瞳を細めてみているイザーク。
手持ち無沙汰で煙草に火をつけたから………吸う気分ではないらしい。
あと………数分もすれば、指先で挟んでいるフィルター部分に火が届くだろう。

『………何か言いたそうだな、ディアッカ』

俺も………待ち時間を潰す為に買った缶コーヒーを手にしていた。
飲み切れず、中身の入った缶を揺らしてちゃぽちゃぽ音をたてていた。

『………いや………お前に……じゃないけど』
『………聞いてやる』

………こいつも時間持て余しているんだなぁ………
と、思いつつ、俺は口を開いた。

『なんかさ………赤ん坊の生まれるの待ってるみたいな心境じゃね?』
『………あほか』

吐き捨てるように返答される。

『赤ん坊は必ず生まれるが、アスランが必ず目覚めるとは限らん!!』
『………はいはい』
『はいは一回でいい!!!』
『………でもさ』

イザークの爺むさい言葉を無視して、俺は話しだした。

『もし………目覚めなかったら………どうするんだ?』
『どうする………って』

口籠もるイザークに俺は冷やかす。

『お姫様がダメなら、王子様って………』
『………王子は誰だ?』
『………やる?イザーク?お姫様にも負けないディープな一発をぶちゅっと!!!』
『ば!!バカ言うんじゃない!!』

みるみる耳まで真っ赤にするイザークに、俺はにやりと笑った。

『ホントはしたいんだろ?』

本腰入れてからかい始めた頃、喫煙室の扉が勢いよく開いた。

『アスランが…』

シンの言葉を塞ぐように、イザークが悲鳴をあげた。

『あっちい!!!』

.

『やっぱり最後はお姫様なんだな』

俺は指先を火傷したイザークの姿を見て、更にほくそ笑んだ。

『………悪い方向に転ばなくて良かったじゃないか』
『………まあな』

俺の顔とイザークの顔を交互に見ながらシンは部屋の扉を開けた。

『疲れるから、長い時間はいられないって、医者が………』

ゆっくり開いた扉から、桃色の髪と共に議長が顔を出した。

『イザーク………アスランに伝えてくださいな』

煌めく瞳とは対照的に、疲れを帯びた柔らかな声。
現場にいたイザークに、結末を話させようとしているのだ。
酷い女だな………目が覚めて直ぐに、アスランに聞かせる話しじゃないだろうに………

『………』

イザークは、強ばらせた頬をゆっくり緩め、クライン議長の肩に手を置いた。
そして、アスラン横たわるベッドの傍らの椅子から、アスハ代表が立ち上がり………
イザークはその椅子を目指し、室内に足を踏み入れた。

『気分はどうだ?アスラン?』

.

一定の電子心拍音と………

ベッドに埋もれた少女の……

生かすための呼吸音が空間を埋めつくしていて……

自分の呼吸すら……忘れてしまいそうなこの空間から……逃れたくなる。

もう……何時間……ここにいるのだろう……
この………極度に照明の落とされた部屋に………
渇いてしまった喉を潤そうと、カガリはアスランの座る車椅子から立ち去ろうとした。

『………まって』

弱々しい力で……左手首を捕まれる。
擦れた声が、機械音に飲み込まれそうに小さかった。

『………あす……らん』

何時間ぶり………ぐらいに口を開いた私も、声がうまく出せなかった。
振り向き、アスランの顔を見る。
色の薄い彼は………更にその肌を白くしている。
私の視線を感じているはずなのに………
気にしなようにしているのか、視線は機械の中に横たわる少女から離れなかった。

『……キラと……ラクス……呼んでもらえる?』

静かな声。
抑揚のない………声。

『え……あぁ……』

思わず聞き逃しそうになり、慌てて返事をする。
機械の間を小走りし、部屋の外に出て……廊下のベンチにいる二人を呼ぶ。

『………どうかしたの?カガリ?』

自分も………罪の意識でいっぱいなハズなのに………
それでも安心させようと笑いかけるキラに抱きつきたくなる。

『どうぞ………気分が落ち着きますわよ』

ラクスは鞄から水筒を取出し、僅かに湯気をたたせた飲み物を出してくれた。

『………呼んでるんだ、アスランが』

ベンチに座る二人は顔を見合わせた………

.

『……アスラン?』

不安な眼差しの二人に……憔悴した翠の瞳で彼は応えた。
薄暗い部屋。
二人と入っても、私は照明を点ける気分にはならなかった。
現実を………曝け出したくなかった。
この………機械音だけでたくさんだった。
時間すら麻痺させる音………
動かないアスラン。

イザークの話を聞いて………
あの瞬間はまだ………忘れられない………
まだ………意識を取り戻したばかりで………
絶対、細くなった意志にしがみつこうとしているような………
そんなギリギリの精神状態。

彼女のことをイザークが口にし始めると、表情がなくなり………

………そして

瞬間翠の瞳が大きく広がり………

みるみる涙が………

零れそうな涙を堪えようとして眉間に深い縦皺をいれて………

そこから………瞳は曇っていた………

耳には入っていたと思う。
イザークの言葉。
でも、車椅子乗車できるようになって………すぐに来たのは………ここ。

『……カガリ……左手……』
『……あ……うん』

差し出されたアスランの左手に私は手を乗せる。
何も………疑問は湧かなかった。
左手の袖口をアスランの右手が器用に捲って行く………
アスランがプレゼントしたクロノグラフが露呈した。

(お前の………アスランの時間だろ?)

やだ……なんで………
なんであの時の情景がリフレインするんだ?
今は………あの時ほど、満たされてないから?
瞬間、身体に悪寒が走った。
震えた手を取ったまま

『………っ………』

アスランは唇を噛みしめ………

『………』

一定の途切れない電子音が響き………
ベッドに埋もれた少女の……
生かすための呼吸音は空間から消えて……

『………エオリア・フィッシュバッハ死亡……』

震える声が部屋に吸い込まれていく。

『2月14日0824……確認……カガリ・ユラ・アスハ……キラ・ヤマト……ラクス・クライン………アスラン・ザラ………』

ラクスは……キラの胸に顔を埋めて肩を震わせ……
キラは潤んだ瞳で親友を見つめていた………
声をたてずに……涙を流す親友を………

『………あすら……』

頬を涙で濡らし尽くしたカガリは……震えるアスランを抱き締めた……。

『…………』

車椅子に身体を預け切ったアスラン……。
ぽたぽたと膝を濡らす涙の音は……不規則なメロディを奏で……

C#の高い音が響き続ける部屋

全てが止まっていた。

嗚咽する声すらなく………

ただ………

ただ………

時間が過ぎて行く………

静止画像が永遠に続き流れるようだった………

『…………カ……ガリ』

消え入りそうな小さな声。
黄金色の頭が………茶色の頭、ピンクの頭がゆっくりと動いた………

止まった時間が動きを見せた。
感情薄く、ようやく聞き取れるような小さな声………

『頼みたい事が……あるんだ』

つながらない………途切れ…途切れ………の………言葉………

『エオリア…を……アリアを………』

………宇宙に返したいんだ………

.

あの時……銃口は間違いなく俺の額を狙っていた。

赤のチェイサーが見えていたから………

………死ぬのは……俺だけ……だったんだ………

何故、彼女が俺を庇ったのかわからない。
急遽動いた彼女は俺の身体をずらして……

背面からサフィーラの放った銃を受けた……
その銃弾は彼女の身体を通り抜け……俺の左肩口に入って……止まった

彼女から取り上げた銃で……エオリアを受けとめて床に倒れる前に反撃は………した……

なんとか……胴体には当てた……けど……
イザークの放った銃弾が、頭部に当たった方が先……だったから……

.

(さっきのキスは?)

………俺と………同じ

翠の………瞳………

これには答えて?

………と、問う唇。

真っ直ぐな視線が俺から離れない。
あの時、無条件に不協和音が心に響いたのを覚えている。

………好きだった

カガリとは違う………暖かな感情………

いとおしいと………

初めて知る、同じ血を流すもの………
もっと………

面倒みてあげたかった
もっと………

抱き締めてあげたかった
もっと………

一緒にいたかった、話したかった、笑わせてあげたかっ………

………兄として………

………好き………だった………んだ………

.

『イザーク………』

車椅子に座ったままのアスラン。
その声には重く、気力は失われていた。
医者の話を聞いた限りだと……足は既に治っているとのこと………

本人に……自分の意志で歩きだす気持ちがないのでしょうな………

レントゲン写真を見比べて話を聞かされた。

『………なんだ…』

ディアッカと思わず視線を重ねる。
だが、瞬間……合っただけ、直ぐに打ち合わせたように目を伏せ合った。
俺はアスランに尋ねる。

『………なんで………』

イザークとディアッカは絶句した。
声が………擦れていた。
この………男が………
俺達の前で………泣いている………のか………

『………いつも………答えが……出て……こない……』

………俺が………

……思う正義を貫こうとすると………

………なんで大事なヒトを亡くしちゃうんだろう………

.

俺もディアッカも………

何も言葉を返すことが出来なかった。

俺だって………

何が罪だかはわからない。

有言実行が罪なのか………

無言実行が罪なのか………

好きも嫌いも紙一重で………

『………イザーク』

伏せていた瞳を、呼ばれた方に向けた。

『これで………よかったのか?』
『………わからんッ』

言葉を投げ付けた。

アスランの退院予定日なんてとっくに過ぎていた。
あいつの足は動かないまま………

そして
あいつの気持ちの整理もつかないまま………

ここ………プラントのように………

いや、宇宙空間に漂うダストのように、アスランの心は無気力だった。

俺は変わらぬ空を仰いだ。

………俺達の世界は変わらない………

長い河の中、テロリストと言う大きな岩が突如現れ、今はまた、突如去ったのだ。
河の中の流れは岩が現れる前と変わらず………
俺も、ディアッカも………議長もお姫様も………世界は変わらない。
アスランだって………変わらないハズなのだ。

でも………

………だけど………

あいつの心は囚われたまま………

長い河の流れに………

………取り残されたまま………

『………くそッ』

悪態を付くしか………俺は出来なかった………

………数日後

オーブのお姫様が退院の手続きをとったと、キラからメールが届いた。

.

緑が風に棚引く………

このプラントにも、風は吹くのだなぁ………

頬をなぞる風は適度な湿度を含んでいて気持ち良い。
日和見で、熱さ、冷たさ………それらが異なる地球とは全く違う。
全てが管理されていて、その枠を広げるには人々の惜しみない努力を注ぎ込まなくてはならない。
全ては人為。
………だから

アスランのようなヒトが生まれるのかもしれない。

彼は………彼なりの犠牲と引き替えに………
妹と知った彼女を手元に引き取りたかった………のだろう。
でも………その犠牲が………
私の傍から
離れる………こと

ね………アスラン………

私を守ることはそうじゃなきゃできないの?

それだけ私が重荷?
………

私が、オーブの代表だから………

私とオーブは共同と………

アスランはそう………認識したんじゃないのか?
私が職務優先にしてたから………

アスランとの時間を何度もキャンセルした。
もう………数えきれないくらい………

そんなんじゃないのに………

そんなんじゃ………ないのに………

.

肩にのせられている手が震えている………

プラントの大地の端。

海と空………いや、宇宙の溶け合うところ

そんな景色が好きで、俺はここを家族の墓所とした。
父の遺産でもあるこの土地に………

父上が何を夢見て、ここを選んだかはわからない。

………俺と………同じ気持ち………なら………

こんな家族のカタチで俺はここにいることはなかったはずだ。

ここには………何もない。

形ばかりの墓標がまた………ひとつ

増えただけだ。

わかって………いる。

………俺は

この、肩にのせられている震える手を、包まなくちゃいけないことを………

でも………俺は………

『……カガリ……』

……ごめん

……いつも……傷……つけてばかり………

.

震える口付け……

優しいわけではなく……

奪うわけでもなく……

ただ……

悲しみを全面に押し出したような……

悲しい……

哀しい……

………口付け………

貴方の痛みも

哀しみも

弱さも

受けとめるから、全て……

だから……

傍に……いて

………離さない……で……

アスラン……

名を呼ばれ………

更に溢れだした涙。

いとおしい気持ちも、流れる涙と共に堪えることは出来なかった。
誤魔化すようになんとか笑い顔を取り繕って、アスランが座る車椅子の前に立ち、膝を折った。
何も言葉を出さず、両手を伸ばしたアスランは、その白い大きな手で、私の両頬を包み………
私の震える唇を、やわらかな唇がそっと触れ……包みこんではついばんで……
ついばんでは重ねて……

『『……っ……』』

時間をかけて溶けて行った口付けは……ようやく深いものに変わり……

『離さないで……独りは嫌……』

唇を離した途端、出た言葉は傷ついたアスランにすがりつくような言葉………
貴方にとって今は重い言葉なのは苦しいほど………わかってる。

でも

わたし

独りで自分の戦いを乗り越えられるほど

………つよくない

カガリは……確固とした力で……車椅子のアスランを抱き締めた。

………つよくなるから

貴方より

つよくなるから

………だから

いま………は………

.

………気が付くと

頭を撫でられていた。

上から

下へ

何度となく繰り返される動き………

変わらない………いつもの感触………

大きな感触、包み込む優しい手………

溢れていた涙は、アスランの服に吸収されていた。
いつも気遣う………薄い香水の香りに隠されたアスランの体臭が、直に香った。
再度、抱き寄せる。

………ぇ

いつも………回らないところまで、指先が届く………

頭にのせられたアスランの手………
それが更に冷静にさせた。

私が………悪い……んだ………
歩きだそうとしないアスランに気遣い、なにもしなかった。

オーブにいた時から………どのくらい体力落としているんだ?
最後に逢った………アスランに抱かれた時も………

あまり気が付かなかったけど
………車椅子に乗せたままだから………

こんなに………

身体が細くなっていたなんて

………つよくなるから

こんなんじゃ、また、アスランは………傷付いてしまう。

自分の力がないと………

また、誰も守れないと………

私がアスランを守れるよう………
………つよくなるから

『………アスラン』

私は立ち上がり、中腰姿勢になって、車椅子のアスランの視線の高さで彼と視線を交わした。

精彩にかける翠の瞳が………

私を映した。

.

アスランの腕の下に手を通し………

『………どうしたの?カガリ』

こころの中でごめんと謝りながら、私はアスランを車椅子から持ち上げ………
私は背中から………アスランを抱き締めて、緑の草原に倒れた。

『………ッて………カガリ!!怪我は!?』

私の胸元に顔をうずめたアスランは、即座に立ち上がろうとして………再びバランスを崩した。
崩す直前のアスランの表情は………
想像はしていたけど、やはり………見たくない表情だった。
大きく見開いた瞳。
その瞳の奥に………現実にたった今、向き合った………動揺が走る。
私は緑の大地に背をつけたまま………再びアスランの首に手を伸ばし………抱き締め………た。
目の前に見えた藍色の髪に隠れた白い耳たぶ。
私はそっと口付け、囁いた。

………痩せちゃったね、アスラン………

.

私も………また、泣いていた………
声を殺して泣くアスランにつられて………

………肩が………彼の涙で冷たく濡れていく………

私は彼の髪を撫でた。

優しく

上から下へ

ゆっくり

ゆっくりと

いつも、私にしてくれるように………

『………ありがとう……カガリ』

擦れた声が耳に入ってきたのは、日がかなり傾いてきた頃だった。
私は何事もなかったかのように、アスランの白い耳たぶに再び口付けた。
そして、キツく抱き締めるようと彼の身体に手を伸ばしたけど………
アスランは急に肘を伸ばし、上半身を持ち上げ………

『………カガリ………カガリ………』

私のおでこに、頬に………

触れるだけの口付け。

最後に触れたのは私の唇。
その時には、落とされた軽い口付けから熱が出ていて………

『あす……んっ……ふ……んんッ!!!』

絡まる舌に私は甘く鼻を鳴らし………
先ほどの、お互いが溶け合うような優しい口付けとは違う、アスランの………心が伝わるような激しく、求めるような口付け。
彼の香りに、鼓動に、飲み込まれていく………

もう………

何も考えられなくなる………

私が守らなきゃ、強くならなきゃ………

そう………

アスランに対して考えていたのに………

こんな風なキス………されたら……私

また………甘えちゃう………よ

あなたの腕の中にいたい………

あなたに守られていたい………

だって………

.

アスランが潜入していたテロリスト集団クロムグラスは、アスランとイザークによる代表並びに組織主要人物の殺害に拠り、求心人物不在を理由に即座に崩壊していった。
ディアッカの乗り込み後、戦艦在席者は捕えた。

地上の砂漠内の植物プラントへはカガリの命を受けたキサカ氏が対応した。
カガリに上がってきた報告書を見せてもらい、先日、植物プラント立地地の大統領とオーブで四者会談を開いた。
施設構造物の検査後、その構造物を使用して、植物を絶やさぬように生産することを協議内容に盛り込んだ。
植物プラント施設内で働いていた技師は今、プラントにて裁判を受けるために拘留されている。
各供述を聞いた段階では、地球に緑を増やすために参加している………と、皆、口を揃えて話した。

『精神鑑定と、マインドコントロールの有無か………』

今回の事件解決者でもあるイザークが抱えてきた書類に目を通しながら、キラは眉をひそめた。

『アリアも………そうだったんでしょ?』
『俺はわからなかったがな』

イザークは自分が持ってきた書類に、キラが押印したか確認し、何か書き込みされたか中身を広げた。

『………まだ、ヤツはへたばっているのか?』
『………ぇ』

予想はついていた。
ヤツ……が誰のことを指しているのか。
でも、つい………わざとらしく僕はイザークの問いにわざと【なんのこと?】とばかりに聞いてみる。
イザークは………アイスブルーの瞳をぎらつかせて睨んできた。
相変わらず………冗談の通じない反応だ。

『アスランはリハビリ始めたよ………最近からね』

僕はイザークからの視線をわざと外すように、他の書類の中身を閲覧し始めた。

『筋トレも始めてるし………あ、そうだ、イザーク!!』

アスランに言われてたんだけど………どうしても苦手なんだよね………
ストライクフリーダムに乗る前から口うるさく言われてるけど………

『………なんだ………?』

あ………少しは、機嫌治ったかな?
頼りにされると嬉しくなるのは、ホント、イザークのいいところだよなぁ………

僕はにっこり笑ってイザークにお願いした。

『銃の練習、付き合ってあげて、アスランの!!』

………僕、どうしても苦手なんだよねぇ………
………と、言い切らないうちに、イザークの声が室内にこだました。

『ずぇったい!!!断る!!!』

………なんで!?

………けち………イザーク……

.

………無重力下で、重力にあがらうべく筋力を付けるとは………な

リハビリテーション………

『全体の筋量も足りませんね』

以前と同じように動ける身体にしたいと伝えると、技師は即座にそう答えた。
身体の稼動域を整える為、今は負荷のかからない無重力下で、どこまで活動出来るか測定を受けている。

………早く………

元に戻さなくては………

いつまでもカガリをこちらに置いておくわけにもいかない。
彼女はオーブの首長代表なんだ。
何回かは仕事でオーブに帰っているみたいだけれども………
ほぼこちらで仕事をしている。

出会った時から変わらない芯の強さ。
でも、心はとても繊細で………相手を励ましながら、自分を傷つけていたりする不器用な感情。
彼女は感情に流された行動をすればするほど………
皆に愛された存在になる。

俺の手から離れていく。

そんな存在。

だから
俺は、彼女を自分から放さなくちゃいけないのに………
だって、俺はもう

軍人じゃない。
一般人かどうかもわからない。

俺の立ち位置がどうなっているのかすらわからない。

俺は………

.

『お帰り』

車椅子に乗った俺がリハビリテーション室から出てかけられた言葉。

『大丈夫か?アスラン………』

しっかり汗をかいて、自分でも気になるくらいの汗の臭いなのに………俺の顔に………顔を寄せるカガリ。

『あぁ………大丈夫だ』

………お願い………だから、離れて欲しい………

『………ホントか?』

………だから、寄らないでって………

俺は思わず、背中を車椅子の背にぴったりとつけた。

『俺………汗、かいたから………』
『うん、そうだな………看護師さん!!!』

………カガリ?

俺から離れてくれたはいいけど………

『アスラン、お風呂入れて大丈夫?
えっと………車椅子から座椅子に変われば平気?
まだ………立てないもんな?』
『そうですね。浴室空いているか見てきますね』

車椅子のハンドグリップを握っていた看護師は離れ、ナースステーションに向かって歩き………
看護師がいたスポットに代わりにカガリが入る。

『シャワー………浴びれるといいな?アスラン?』
『あ……あぁ………』

な………何………言いだすんだ

………いやな………予感が………

『しっかり洗ってあげるからな!!!』
『!!!???』

.

『ほら………目、つぶってないと………』

………そう………言われなくても………

なんか、恥ずかしくて………何もみたくないから、目なんて閉じてるよ!!!

『か………カガリ………』
『ん………?』

自分の身体まで………カガリに洗わられるなんてまっぴらごめん!!!
とりあえず………自分の意志は伝えなきゃ!!!

『右手は使えるんだけど………』

俺の頭を洗うカガリの指先の力は、全く変化なく………スピードすら変わらない。

『長湯は身体に負担かかるだろ?たまには甘えろ!!!』
『………』
『ほら………流すぞ』

………俺の話なんて、全く聞いてないのか………

身体、動かした後だし………

シャワーから出てくるのはお湯だし………

色んな意味で、俺………

クーリングダウンしたいんだよ。

………だから………

『カガリ………』
『ん………?』
『あの………あとは、自分でやるから………その………』
『え!?いいよ、洗ってやるから………』
『自分でできるって!!!』
『今さら、何、遠慮してるんだよアスラン………』
『………嫌なんだよ』
『?嫌も何も………お前の身体なんていつも見て………』
『………だから、嫌なんだって!!!』

.

………痩せた

アスラン………

再生治療のおかげで、傷は薄くなってきてはいるけど………
今回受けた傷跡は他の傷よりは目立つ。
さっき洗った左肩も………緊急手術した時に、筋肉と腱の縫合をしたって………エリカが言ってた。
先日、助けた時に再度手術して………
その時には前回の緊急手術の跡がほとんどなく、全て移植したと、執刀医から言われた。

身体に残ったその時の感情。

アスランが自分で身体を洗うと言いだしても………ボディスポンジを渡さなかったのは傷がどこまで治ったか確認する為。
これらの傷は、どこまで私が関与して傷つけたものなのだろう………

思わず出た溜め息。

『カガリ………俺……もう』
『ん?何?』

アスランの言っている事がわからず、顔をあげる。
視界に入るのは、腹部手術の細かく縫い合わせた跡ではなく、アスランの真剣な顔になる。

『………』

黙ったままのアスランに、私は笑って尋ねた。

『どうした?』
『………限界』

.

カガリの吐息が引金だった。
看護師に洗われてても平気なのに………

ボディスポンジ越しにカガリを感じる。

カガリは………

………俺のキモチなんて………

わからないんだろうけど………

痒いところない?

………って、背後から尋ねられた時も、緊張したし………
かいがいしい彼女を、いとおしいと思ったし………
俺の背中を擦り、胸を洗い出した彼女の額に浮かんだ汗をみて、思わず胸が高鳴ったり………

カガリの名を呼び………面を上げた時の無防備な表情………

白い肌が淡く薔薇色に染まり………
半開きの唇が、ゆっくり丸みを帯びていくのがスローモーションに見えた。

俺は右手をカガリの頬に添えた。
指先で彼女の顎をあげ、唇を重ねた。
湿度に満たされた浴室で、カガリの唇は艶やかで、触れ合えば触れ合うほど、俺の五感を麻痺させていった。

『………今夜、一緒にいて?』

………カガリを感じたい………

.

『何かおかしくない?』
『………そうですか?』

食洗機から取り出した食器をカップボードにしまいながら、キラはラクスに問い掛けた。

『カガリがおとなしすぎる。
下ばかり向いていたし』
『………キラ』

お湯をティーポットに注ぎながら、ラクスはにっこり笑った。

『カガリさんにはカガリさんの事情がありますわ。アスランにもアスランの事情がありますし………』
『?なんでアスランが出てくるの?ラクス?』

眉をしかめたキラは、カップボードの扉を閉めた。
問いかけを無視し、ラクスはキラに話し掛けた。

『さ、キラ………お茶が入りましたわ』
『………今日は何に効果のあるお茶なの?
ゴーヤ入ってるの?』
『今日は精力茶ですわ!!』
『だからニンニクの匂いなんだね、ラクス………』

注がれたティーカップからのキツイ匂いをものともせず、キラはカップに口をつける。

『この時間にこのお茶………今日は僕を寝かさないつもり?ラクス?』

.

押さえの効かない鼓動が、ずっと鳴り響いていた。
限界………と、呟いていた割に爽やかな笑みを浮かべるアスランに、何で自分だけこんなに動揺しちゃうのだろうと、自分の存在に軽く嫌気がさした。
私を抱きたいって………今もそんな体力なんてまだないはず。
今日だって、歩けるようにリハビリを何時間も受けていたじゃない。
車椅子からベッドにアスランを移そうと、いつも通り彼の腕を自分の首に回させ、まだ不自由が残る彼を抱き上げた。

『んしょ………ほらっ………もうちょ………』

ベッドサイドに座らせようと引っ張り上げていると………
耳にそっと息が吹き掛けられた。
肩にかかるアスランの腕に力がこもり、私の首筋に柔らかい感触が生まれた。
皮膚を挟む、撫でる感触が、生温かな吐息と共に濡れたものが走り出す。
密着した身体に、アスランの男が主張を急速に始めたのを感じ、自分の身体も熱を持ち出す。

『あ………アスラン、ほら、ベッドに………』

首筋に触れていた唇が離れ、いつもの感覚が戻り、ベッドサイドに座らせる。
パジャマに着替えさせようと、シャツのボタンに指をかけ脱がせる。

『肩………回るか?………!!!』

身体に………想定してない方向から荷重が加わって、目の前には乱した濃紺の前髪の下でゆっくり瞳を瞬くアスランがいた。

『………ようやく………』

.

アスランがその後、何を言いたかったか今でもわからないままだった。

細められた翠の瞳はただ優しく、幸せそうで………
ベッドに倒れこみ、傍らにいるのは大事なヒト。
唇にそっと触れられ、離れて目蓋を開けると、ぎゅっと抱き寄せられ………更に近付いた瞳に瞬間ときめき、高鳴ったキモチのまま再びキスが降ってくる。
聞きたいことは、アスランからもたらされる前戯で甘くコーティングされ………胸の深い深いところに押し込まれた………。
割り開かれた唇に、舌が入り………応えるように私もおずおずと舌を出した。
アスランの唇が私を覆い、そっと幾度も啄む感触に身体の芯から溶かされて行く。
着ている服にかかったアスランの手が、私の服をめくりあげ、温い空気が肌に触れた。
さらっとした熱い手が私の脇腹をつかみ、私の身体をベッドの中心に向けて移動させた。
直後、胸の頂きに湿った感触が………円を描くように撫でられ、先端には触れてこない。
焦らす好意に脳が過激な期待をし、触れられてもいない下半身が、勝手に疼いて行く。

『………ん………ァ………スラ…ン………』

脱いだ方がいい?

喘ぎ声を押さえながら、何とか呟いた言葉。
言い終えると同時に先端が甘噛みされた。
背筋を走り抜いて行った官能に、私は思わず身体を捻った。

『リード………してくれるのかな………?』

熱くなった吐息が私の腹部を覆った。
彼の手のひらに囲まれた私の胸は緊張し、更に先端の乳首を硬く尖らせた。
それを指の腹で摘ままれ、私は思わず高い声をあげてしまう。

『………カガリ』

無垢な声………
俯いた視線の先に、翠の瞳………
アスランの色に………引き込まれていく………

.

ベッドの中央で仰向けになったアスランに、私は再度跨がった。
今度は………
彼を受け入れ………包み込む為に………

『………カガリ………こっち………』

言葉少ない彼に指示された場所は、彼の顔だった。
数える位の愛情表現方法に………ましてや一番恥ずかしい場所を………
アスランの目の前に晒す………
………一気に体温は沸騰する。

『リード………するんだろ』
『っ………私はっ!!!』

………お風呂にも………入ってないのに………

腰に回されたアスランの熱い手が、有無を言わさない意志を持っていて………
その先にある悦楽が脳内でエンドレスリロードされる。
意志なく走り出したアドレナリンは既に暴走状態。
下半身は勝手に蜜で潤っていた。
アスランの顔に跨がり、直後に自分の悦声を聞きながら、興奮に尖った部分をアスランの舌に踊らさせていた。
押さえ込まれた腰は、彼の舌から離れず、蜜を啜るアスランの奏でる音にすら、胸を上下させて感じていた。
やがて、腰にあった彼の手が私の乳首を摘まんで引っ張り………伸ばされた後に離され………
…………私はっ

『ッ…………あ……ダメっ…だめぇ!!!』

胎内から一気に温かなものが流れて行った………

『………交代』

ぐるんぐるん………と、アスランの舌が私の陰部を舐め捕った後………
私は、アスランの身体の上で180度回転していた。
思わず生唾を飲んだのは、彼の舌の快楽に酔っていた時分、驚く程にアスラン自身も律していたこと。
そして、こんなにも大きくなった男根を、私の胎内で………
貫かれ………暴れさせ………擦られ………
子宮の奥が、久し振りの激しく刺激を思い出しひくひくしてくる。

『………感じさせて…カガリ………』

早く………自分を感じて欲しいのか………
私の胸を手のひらで撫で回す。
熱い吐息を、まだ尖ったままの陰部に吹き掛ける。
溢れ………濡れ続ける蜜壺………

『こんなにびちょびちょにしちゃって………俺、起ってないと…入れられないよ?』

その直後、温い彼の舌が私の陰部をぬっとりと舐めあげた。
思わず上げた小さな喘ぎ。
上半身を支えていた腕に力が入らなくなる。
崩れるようにアスランの下半身に私の上半身は落ちて………目の前にそそりたつ雄を………私はそろそろ舌を伸ばし、先の方でチロっと触れた。

.

指が回ることがギリギリなぐらいに太くなったアスランのを、口に含み、何とか舌を絡ませる。

『………ぁぁ………キモチ……いい………』

熱い吐息と共に、私の股間で発するアスランの掠れた声………
私の腹部の下で、膨らむアスランの胸。
ゆっくりしゃぶりながら、指を動かし………アスランの胎内で何かが動き出すのを肌で感じる。
彼のを握り、先の部分だけ唇で挟み愛撫すれば………私の手の中で更に硬くなるアスランがいた。
口の中で浸食していく彼のカウパーに、私はもっと唇をすぼめて強く吸い込んだ。

『………ぁ………ァァ………』

………感じてくれているアスランの声………
彼のを根元まで含み優しく撫でた………と、いつの間にか添えられた彼の手が私の頭を優しく触れて………

『………ングっ!!!』

最大限目一杯口に入れたところだった。

『ん!!!………ンーーーっ』

………頭を押さえ込まれた。
同時に………今まで放置されていた私への愛撫が再開され………

………ッぁ………こ……息が………できな………

口内を圧迫するアスラン………
厭らしい水音が自分の陰部から甘く激しい刺激と共に発せられ………

………ぁ………も………

………………だめぇ………ぇ………

気が遠くなりそうな………白い感覚の中で、私は無意識に身体を何度も震わせ続けた………

.

………あぁ

ぐいぐいと押し開いていくアスランに、私はつい………痛い………と、言葉を発した。
何時も、開きやすいよう溶かしてくれる前戯は、その場所には全くなかった。
思わず眉をしかめる。

『………大丈夫?止める?』

下からの優しい声音と共に、私の腰に回されたアスランの両手。
熱くなったままの身体に触れたその手はちょっとだけ冷たく感じ………心地好かった。

『………も………問題ない………大きすぎるんだよ、お前のが………ン………』
『そう………?』

重なった視線の先で、翠の瞳を細めたアスラン………

『………?………ッ……ぁ………あッ!…!!あぁッ!!!』
『………ン………い………』

アスランの手が私の腰を一気に引き寄せ、私は思わず声を上げて瞬時に仰け反った。
内壁の奥を揺さぶる衝撃。
跳ね上がるように大きく揺れた胸は、改めて快楽への道を広げていた………
厭らしい………にゅぷにゅぷと音を派手にたてながら、私はアスランの腰の上で動き………

『………ぁ………キモチいいよ………カガリ………』

小さな喘ぎ声の中で、呼ばれた名前………喉の奥がきゅんとし、私は垂直にしていた身体を前傾にした。

『ァ………こ…の………イタズラむ……ッしッ!!!』

乳首が弱いのを知ったのは何時だろう………?
長く伸ばした舌の先っぽで、小さく膨れたアスランの胸のスイーツを丁寧に舐めた。
私の胎内で怒張する彼を諫めるよう、腹部に力を入れると、アスランが白い喉を見せて、頭を左右に振った。
何度も息を飲み込む度、喉仏が上下する。
声を殺して悦に溶けていくアスランを導いて行くのは、その後のご褒美をいっぱい貰いたいから………
腰にあった彼の手は、私を抱え込むように背中と、頭にあった。
私をゆっくり撫でるアスランの手が、私の舌の動きによって止まったり…動いたり………
その手が急に動き出し、私の身体を持ち上げて………

『………ぁ…いしてる………カガリ………』

真っ直ぐな翠の瞳が私を貫く………

お互いを知り尽くしているはずなのに………深いキスを貪りながら、今までとは違う快楽の扉をまた探しだす。
緩やかに腰を回され、泉からは溢れ続ける淫水が、アスランの下腹部に粗そうを繰り返した。
私を抱きしめていた彼の両手が次第に私の腰を持ち、強い力で揺り動かす。
と、同時に下から突き上げて来て………
アスランの喉で消えていく私の悦声………
全神経が快楽の頂点への道を推し進み………
身体が大きく震え、私は………波に飲まれた。

『………カガリ』

名を呼ばれ、ゆっくりと瞳を開いた。
身体がまだ熱くて………このまま眠りにつきたかった。

『ん………どう…した………?』
『………ん』

はにかむ笑顔と共に、アスランは唇を寄せてきた。
触れるだけ………次は啄んで………甘えるようなキスを繰り返す。
そして………

『もう一回………』

そう………耳元で囁き、アスランは私の両足を肩まで持ち上げて………

『ちょっと待て!!!アスランん!!!』

まだ余韻が溢れている私の中へ………再び猛っているものが入ってくる。

『ぁッツ!!………ン…そんッなに………動い……ら!!………ァき……キズに!!!』

『大………丈夫!!………俺…コーディネーターぁ……だし………』

訳のわからない台詞を言いながら、アスランは私のより深いところを先端で擦り上げ………

.

………すっかり寝坊しちゃった………

キラはエプロンを首に通しながら廊下を歩いていた。

ラクスがいけないんだ………
………あんなことや、こんなことまでするから………

いくらあんなお茶飲んだって………

コーディネーターの僕にだって限界はある!!!

瞬間、昨晩の行為の余韻に頬を染めるが、朝の光が満ちた廊下では現実が勝り、キラの腹は空腹を訴えて鳴った。

………朝御飯………何がいいだろ………

米好きのカガリには悪いけど、僕、お腹減ったから直ぐに食事にしたいんだよね………

………冷凍パン………あったかな?
ホットケーキにウインナー、紅茶でいいかな?

温野菜のサラダと先日イザークからもらったジャムを出そう………

『カガリ………起きて』

ドアをノックする。

『アスランの着替え手伝うんでしょ?カガリ』

いつにもまして………反応が悪い。

『………入るよ』

十分にノックした扉を開く。
薄いレースのカーテンが僅かに揺らぐ。
部屋の中で動いたのはそれだけ。

『!!!』

嫌な予感がした。

屋敷内のセキュリティはかけて寝た?
カガリは誰に狙われた?
コーディネーターと親しくしているから………狂信的なナチュラルが………

いや、もしかしたら………まだコーディネーターが………まだユニウスセブンの………

『………まさかアスランまで………』

.

頬にあたる日差しが温かく感じた。
ラクスが用意してくれた客室はガラス張りのテラスに繋がっていた。
悪趣味………とは思わないけど、俺にはその贅沢は似合わなかった。
屋外に出やすい………ことだけは利点かもしれないけど………

『………ぅ……ん………』

寝返りをうったカガリがベッドから落ちてしまわぬよう、俺は彼女の肩を引き寄せた。
勢い余ったのか、寝惚けているのか………偶然にも都合よく、カガリは俺の胸に顔を埋めた。

………いとおしいカガリ………

思わず黄金の髪を撫でる。

これが………俺が選んだ幸せ………

そして世界が導いたモノ

指先にクセのある彼女の髪が絡む。

………運命なのか

………必然なのか………わからない

俺なりに抗って、手にいれて……きた………けど!!!

………ヴヴヴ………ヴヴヴ………ヴヴヴ………

………電話!?こんな朝早くに!?

『………はい』

唾を飲み込んで話しだしたけど、それでも寝起きの掠れ声は隠せてなかった。

『………部屋の鍵、閉めるなって言ったよね?』
『ぁ………キラ………』

………何………朝から………機嫌悪いんだ………?

………それより………

耳が………オカシイ?

………………声が二重に………

俺は携帯電話を耳につけながら頭を動かし………

『キミの上で寝てるカガリを起こして!!!それと!!!』

ある一点で止まり………思わず口が自動で開いて行く………

『体力回復してるなら、アスランもご飯当番してよ!!!』
『…ぇ…………ァ………』

………だから………この客室………
嫌なんだよ…

………テラス側の窓

レースのカーテンの隙間から………
紫の瞳が………窓の外から睨んでる………

『カガリの髪撫でていないでさ!アスラン!!!』

.

『い………いや、あの………』

寝癖のついた黄金の髪をくしゃっとしながら、カガリはなんとかキラの機嫌をとろうと焦っていた。
その前を、膝にカトラリーケースを乗せた車椅子のアスランが通る。

『カガリ………事実は事実だろ………』
『でも………お前は悪くないじゃないか!!私が………その………』
『………誘ったのは俺だし、同意の上での行為だろ?それより………』

発言内容が多少恥ずかしかったのか、頬を若干染め、口ごもりながら話すアスラン。
顔を上に上げ、カガリを見つめながら更に言葉を繋げた。

『ラクス呼んで来てくれない?
そろそろパンケーキ出来そうだし………』

アスランの言葉で、キラの傍から離れる大義名分のできたカガリは、黄金の瞳を輝かせるのだった。

『………あんまりカガリ手伝ってくれないし………』

ぶつぶつ言いながら皿にパンケーキを盛るキラ。

『いいだろ?俺が手伝っているんだから』
『大体………さっきから姿見えないけど………』
『………あぁ………カガリには………』

『おはようございますです……ふぁ………』

布団にくるまるラクスを揺り動かしてカガリはなんとか目覚めさせ………
身体を起こしたラクスの胸元がはだけ………

『!!!』
『ふふ………昨晩はちょっとハッスルしちゃったようですわ、キラ』

白い肌に幾つも残された薔薇の刻印を隠すように、ラクスはワンピースに着替えるのだった。

.

未完成
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20180403

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